旅の終わりとある争いの始まり 

*破壊ネタ

 あまりに城での生活が平和だからか、時折戦争している事実を忘れてしまいそうになる。毎日、こうして戦場に出ているというのに。
 それは、この猫も同じなのに。
「厚くん…ッ!!」
「大将! 下がってろ!!」
猫の悲鳴と、敵の上半身をぶった切って、その先に見たのは。
「………厚」
加州清光の声は、もう届いていないようだった。
 走り出してその近くに取り残された猫を拾う。
「まぁ、仕方ないよな…お先に行くわ…。みんなは、ゆっくり来いよ」
「厚くん!」
「常磐さん、離れなきゃ!!」
無意識だろう、暴れる猫をがっちりと抱き締めて最後の敵を屠った。その間に厚藤四郎はものを言わなくなり、目を閉じてしまっていた。
 これは、人間で言うところの死、なんだろうなあ。ぼんやりと加州清光はその光景を見ながらそう思う。いつか自分に降りかかるかもしれない現実だろうに、やけに静かに受け止めることが
出来た。既に加州清光という刀は何処にもいないのだと、そんなふうに思っているからかもしれない。
「厚、お前は頑張ったよ」
さらさらと崩れていく刀身をかき集める。そんなことしたって、どうにもならないだろうけれど、そうでもしなければきっと加州清光の主は気にするだろうから。
「常磐さん」
「…何、でしょうか」
「撤退命令を」
「…はい。帰還、しましょう」
「うん。帰ろ」
そういうこともある。冷たいようだがこれは戦争なのだ。他の面々も口にこそ出さないが、加州清光と同じことを思っているようだった。
 武器らしい武器のない時代。
 其処から来たこの猫には、少しきつい現実かもしれないけれど。

 それから、一週間が経った。
 城中のすべてが厚藤四郎の身に起こったことを把握していた。心があるからだろう、悲しむものもいた。次を見据えて防止策を考えるものもいた。戦場で折れたことを羨ましく思うものもいた。厚藤四郎の使っていたものは粟田口を中心に、人間で言う形見分けをされ、その他の荷物は片付けられた。
 城のすべての刀剣男士が既に区切りをつけていた。
「常磐さん、いつまでヘコんでるつもりなの」
この、猫以外は。
「………私が不甲斐ない所為で、彼は、」
「そう思うなら今度は失敗しないことだね」
冷たい言い方になったのは承知していた。でも、それで良いと思っていた。
 触って、と猫を抱き上げ、鍛冶場から持ってきたその本体に触れさせる。猫が事態を把握する前に、桜が、舞って。
「よっ…と。オレは、厚藤四郎。兄弟の中だと鎧通しに分類されるんだ」
よろしくな! と言ったその小さな身体に猫が飛び込んで大事にします、と言ったその真の意味が、新しく顕現した彼に伝わっていたかどうかなど、別に加州清光の知るところではないのだ。

約30の嘘
http://olyze.lomo.jp/30/index.html



20161019