葬ってくれてありがとう



ざくりざくりと、土を掛ける音だけが響く。 
常磐さん、と揺れる声で呼んだ一軍のエースとも言える刀剣へ、
猫が言える言葉はきっと、ただ一つだった。
「手伝おうか?」
いつものぶっきらぼうさで少しだけそっぽを向きながらそう言った加州清光は、
ありがとう、でも良いんだ、というやわらかな拒絶に何をすることも出来ず、
いつものように肩に猫を乗せて、その様子を見守っている。

何度か出陣している場所で、今日も雑魚掃除のはずだった。否、実際雑魚掃除だった。
上がっている練度が彼らの攻撃をものともせず倒していく、こちらに目立った被害もない。
猫も元気だ。それでも気分爽快とは言えないのは、敵の姿にまだ見ぬ知った顔を重ねるからか。

特に、堀川国広なんかは。

加州清光も共に過ごした(一応相棒のような)刀の無事を確認してはいないが、
そう馴れ合う仲でもなかったのでさほど心配はしていない。
だが、堀川国広は。あの頃は人の身など持っていなかったけれども、知っている。

姿を見たことはなかった。
彼らの前の主が彼を手にしたのは、
もう加州清光らの主がいよいよ亡くなるという頃だったのだから。
それでも、近況を記した手紙から漂うその気配を。
まるで蝉だ、と思っていた。少しは蛍を見習えと、そんなことも。

穴はもう埋まるようだった。シャベル持ってきておいて良かったですね、と猫が笑った。
はい、と堀川国広は顔を上げる。
「ありがとうございます」
何の印も付けないようだった。
皆さん時間を取ってしまってすみません、と頭を下げる堀川国広に、いえいえ、と猫が首を振る。
ほら撤収しますよ、と声を上げれば、
少し離れたところで遊んでいた今剣と鶴丸国永、鳴狐、愛染国俊がはぁい、と返事をした。

とんとん、と堀川国広のシャベルが叩いたところはまだ鮮やかではあったが、
きっと次に来る時までには何処かわからなくなっているだろう。
本人もそれで良いようだった。城への道を歩き出す。

名前も知らないような敵に顔も知らないような誰かを重ねる日々は、
はやく終われば良いと、柄にもなくそう思った。



約30の嘘
20150226