かこん、と今日も庭のししおどしが音を立てていた。そののんびりとした空間の中で、愛染国俊はなぁ、と隣の猫に声を掛ける。
「アイツは働き者だし、オレもサボりはしねぇけどさ。常磐サン…流石にキヨとオレ、二人だけじゃあきつくないか!?」

あめんぼ赤いなあいうえお 

 加州清光は現在、一人で出掛けている。別に遊びに行っている訳ではなく、出撃である。どうしても一人で行きたいという加州清光に、まだ下位マップであることと、刀装をつければ一人でも破壊されることはないだろうということで、隣の猫が大分渋りながら許可を出したのを愛染国俊も見ていた。思っていたよりもこの審神者は、刀というのを人と同じような感覚で捉えているらしい。勿論、愛染国俊とて破壊されたいなどとは思わないし、出来れば使って欲しいし手入れもして欲しい。しかしそれにしては、あの、加州清光を送り出す時の表情―――というか尻尾。
 刀は武器だ。
 それを理解していない訳ではないだろうに。こんなふうに顕現していることもあるし、愛染国俊たちは彼の時代よりももっともっと前の存在であるから、武器としての実感が少ないと言われればまぁ仕方ないかとも思うけれど。
 加州清光が何故一人で行きたいと言い出したのか、愛染国俊はなんとなくであるが分かっているつもりだった。きっと、この猫は分かっていないだろうけれど。加州清光は役に立ちたいのだ。勿論、愛染国俊だってその気持ちは一緒であるが、最初の刀としてこの猫に出会った加州清光はきっと、思い入れが違うのだろう。
「きつい…ですよねえ…分かってはいるんですが…」
ぼんやりと、猫が呟く。その尻尾がへたん、と床についたままで、猫に詳しくない愛染国俊でも猫があまりこう楽しい気分ではないことくらい、分かる。
「序盤特有の資材枯渇を恐れているのとあとレシピが全然出てないので基礎値しか回せないビビリにはちょっと荷が重いというかなんというかとりあえず何かしらドロップしないだろうかとか思っているんですが何ですかねえ………この静かさは………」
「………ちょっと何言ってるか分からなかったけど、常磐サンが一応考えてることは分かったから良いわ…」
 一応、考えているのなら、と空を見上げる。この先きっと長い付き合いになるのだから、その間に少しでも、刀というものを理解しれ貰えれば良い。それに愛染国俊も、この猫のことを理解出来ている訳でもないだろうから、こちらからも歩み寄れれば。
 カンカン、と音がした。門の開く音である。
「清光くんが帰って来ましたね」
しゅっと立ち上がった猫の尻尾がふわりと揺らされる。たたっと走り出す猫を追いかけて、国俊も走り出す。当たり前のように出迎えにいく尻尾に、なんとなく笑みが零れた。
 門が閉まるまで見ていたらしい加州清光が振り返る。
「常磐さーん! 国俊ー!」
手が振られた。ちょうど逆光になってよくは見えなかったが、とても良い笑顔をしているように思えた。

***

浮藻に小エビも泳いでる 

 たたっと走り寄っていた猫を、加州清光は抱き上げる。
「ただいま!」
「はい。おかえりなさい」
顔の辺りまで引き上げると、すり、とその身を寄せられた。気持ちがいい。
「これ、お土産!」
「あ、新しい刀ですね」
拾ってきてくれたんですか、ありがとうございます、と猫に言われれば悪い気はしない。ついでに桃色の肉球でぽふぽふとされれば、頬が緩むのも仕方のないことだ。
「これに常磐さんが触れば、付喪神が具現化して仲間になるんだろ?」
「はい」
 頷く猫の後ろから、のんびり歩いてきたらしい愛染国俊がひょい、と覗く。おかえり、ただいま、と言葉を交わしてから、愛染国俊は呟いた。
「どんな奴が仲間になるんだろーな」
その言葉に加州清光はふふっと笑う。
「こいつは絶対役に立つ。俺が保証するぜ」
その言葉におや、と猫は片耳を動かした。人間で言う片眉を上げるというやつかもしれない。猫なのでその辺りの仕草はよく分からない。
「お知り合いですか?」
「まぁね。具現化してみれば分かるよ」
 ならやりましょうか、と言った猫を地面におろして、その目の前に刀を置く。
「では行きますよ」
息を大きくすって、その前足がぽん、と刀に触れた。
 瞬間。
 巻き起こる桜吹雪。
「あっあの! こっちに兼さん…和泉守兼定は来てませんかっ!?」
「和泉守兼定さん、ですか? 申し訳ないですが、そういうお名前の方は…」
猫が律儀に返す。
「そ、そうですか…」
現れた刀剣がしょんぼりとしてから、それからあっと顔を上げた。
「僕は堀川国広です。よろしく」
 よろしくおねがいします、と堀川国広は猫と愛染国俊、そして自身を拾ってきた加州清光に頭を下げようとして、
「もしかして、加州清光…?」
はっと目を見開いた。加州清光はうん、と頷く。すると次の瞬間、
「わー! この姿、初めて見るはずなのにすぐに分かったよ! すごいね!」
その身は堀川国広に抱き付かれた。
「あっ、そうなんだ!? 俺は刀身見て分かったけどさー、分かってくれるかちょっと不安だった!」
「分かるよ! これなら兼さんと安定くんもきっとすぐ分かるだろうねー」
「うーん…後者は別に、分かってもらえなくてもいいんだけど」
どうやら彼らの知り合いというのはまだ他にもいるらしい。猫は可愛らしいですねえ、と二人を眺めて、愛染国俊もそれに倣っているようだった。

 そしてそのまま早速行こう、戦場行こう! とはしゃいで全員を連れて来た戦場。
「堀川くんは強いですねえ」
加州清光の肩の上で、ガンガンと敵を屠っていく堀川国広を見た猫はほう、と息を吐いた。まだ三人しかいないこの本丸で、この戦力はなかなか嬉しいものだろう。
「改めて」
猫が尻尾を振る。
「皆さん、よろしくお願いしますね」



20150218
20150917
20171102 まとめ