勝って嬉しい花一匁 

 「戦力拡充計画」
加州清光がこんのすけの照らし出した政府からの伝書を読み上げる。
「早い話が経験値イベントです」
「不動行光や太鼓鐘貞宗もドロップしますよう!」
「稀にでしょう、稀に。政府のそういう文言は基本的に信用しないようにしているんです」
つん、と顔を逸して見せた主である猫に、こんのすけはそんなことを言わないでくださいいいと縋ってみせた。遠目に見ていると猫と狐がもふもふしているだけの天国だ。例えそこに若干のブリザードが見え隠れしていようとも。
「まあでも、やりますよ。経験値イベントですからね」
「あ、そっか。極実装とかもあったもんね」
「そうです。なんとなくカンストさせてから修行に行って欲しいので…まだ道程は遠いですねえ…」
「三条大橋もなんだかんだ俺たちが攻略したしね」
「あそこでカンスト部隊を出すのではなくちょこちょこと育てていれば…」
「まあ過ぎたことは気にしない」
「はい」
猫自身もそう気にしていないのか、今極実装されている子優先の方が良いですよね、なんて話を進めている。主がやる気を出したことでこんのすけもほっとしたようだ。
「でもさ、そろそろ新しい奴迎えなくて良いの?」
「一応白金台の編成は考え中です。金盾兵が揃ったら太刀大太刀三スロ編成で殴り込みに行ってきます。あと、一応長曽祢さんは狙ってますよ。来ないだけで」
「あ、あれ打刀レシピか」
最近ずっと100/400/200/50で打っていると思ったら、そういうことか。納得する加州清光の横で、では通達は終わりましたので! とこんのすけが姿を消した。前々から思っていたのだがあの管狐は一体何処から来て何処へ消えていくのだろうか。
「しかし…」
 すん、と尻尾が床につく。
「今うちにいないのが、長曽祢虎徹、不動行光、日本号、物吉貞宗、亀甲貞宗、太鼓鐘貞宗…あと源氏兄弟ですか」
今忘れた子いました? と尋ねられるも加州清光とて全員を覚えている訳でもない。さあ、と素直に返しておく。
「物吉くんはなんとなくそのうちドロップするんじゃないかなあと思っているんですが…ううん…源氏兄弟………」
主の物欲センサーまでは加州清光にどうしようも出来ないので放っておくが。
「源氏兄弟がどうかした?」
主がこういう言い方をする時は、疑問だけでも投げておいた方が良いと加州清光は学習している。
 猫は暫く迷うように顔を洗ったりしていたが、ぽつり、と言葉を落とした。
「今剣くんがこの間極になったじゃないですか」
「………あー」
「察しました?」
「つまり、実在していないという事実と向き合っている今剣のところに、実在していたのなら面識があって可笑しくない刀剣をぶっこむのが怖い、と」
「流石清光くん、私の初期刀です………」
さて、と気を取り直したように猫は尻尾を振る。
「私はこれからイベントに向けてスケジュール調整をしに行きますが、清光くんはどうしますか?」
「あ、俺は庭掃除当番だから、そっちやってから顔出すよ」
「わかりました。よろしくお願いしますね」
たった、と走るその背中を見送りながら、加州清光は小さく呟く。
 「あんま気にしなくても良いと思うけどなあ」



負けて悔しい花一匁 

 次郎太刀の一撃が最後に残った水色を沈めた。
「やっぱり政府監修の検非違使とは言え槍面倒ですねー」
部隊の面々の状態をもう一度確認して、主である猫は撤退を決めたようだった。
「清くんも中傷ですし、此処は撤退します」
「はあーい」
素直に返事をした二人目の加州清光の後ろに、隊長を務めていた鯰尾藤四郎は見覚えのある光を見た。
「あっ常磐さん、ドロップあるみたいですよ」
「誰でしょうねえ。そういえば今剣くんが食べても食べてもMAXにならないんですが…」
「極ってそんなもんでしょー。脇差にも極来るんですかねえ」
「来たとしても申し訳ありませんが脇差で一番は堀川くんと決めています」
「堀川一軍だしねえ。そこは分かってるよっと」
 桜が、舞う。
「源氏の重宝、髭切さ。君が今代の主でいいのかい?」
 しん、とした空気が部隊内を走り抜けた。代表して鯰尾藤四郎がぐぎぎ、と音のしそうな動きで腕の中の主を見遣る。
 つい先日のことだ。イベントについて全員に通達されるついでに、当分検非違使狩りはしませんよ、との宣言を受け取ったのは。まあどうせ落ちる時は落ちるんですから今焦って迎えに行こうとしなくても、と言い訳がましく続ける猫に、その場にいた全員が何かしら先延ばしにしたい理由があるのだな、と思ったことだろう。
 鯰尾藤四郎の予想通り、猫は腕の中で固まっていた。尻尾の先までピーンと張っている。見事な固まりようである。そうしてハテナを飛ばす髭切に、猫は大きく息を吸って、
「フラグ回収早すぎでしょう!?!?」
「常磐さん落ち着いて!!」
「私二日前に源氏兄弟は私の手に余るという話を清光くんとですね!?」
「あー…常磐さんの悪運が働いたって訳ね…」
「清も傍観してないで!? 同じ刀だからって加州の考えてること分かるとかじゃないだろ!? どうせほんとのとこの理由なんて加州しか知らないんだからさー!」
「そういうのはないけど今の鯰尾はちょっとおもしろい」
「面白がらないで!?」
そんな会話に放置されていた髭切はこてん、と首を傾げてから、
「主じゃないのかい? ならば斬ってしまおうか」
今度は違った意味で静かになる部隊の面々。
 鯰尾藤四郎は意を決して腕の中の猫を掲げた。気分としては某夢の国関連のサバンナの話である。
「主です! 主ですよ!! ね! 常磐さん!!」
「ちょっと待ってもらって良いですか。胃が痛いので」
「此処で頑なにならないで! 俺今隊長なんですから! 此処で常磐さんに何かあったら俺加州に顔向け出来ない!!」
 (恐らく)難しい顔をしているであろう猫を抱え、どうするんだい? とにこにこ笑ったままの髭切を引っ張って帰還した鯰尾藤四郎は、後日、顕現されてから一番に慌てた、と語るのだった。



20161019