上か下か真ん中か
大阪城の謎ダンジョンも消え、橋を疾走する企てをしていた時のこと。
「ちょっと大人の事情で富士絵馬を四枚貰いました」
「やったね」
「ちょっと清光くん棒読みじゃないですか? 富士絵馬ですよ? あの富士絵馬ですよ?」
「そんなのかまぼこいたですよ、あるじさま」
「そんなことを言わないでください今剣くん! 出るかもしれないじゃないですか!!」
休憩していた加州清光の前に札を持って現れたのは主である猫と、その近侍である二人目の今剣だった。
今出ているのは遠征組だけで出撃している部隊はない。
そういう時、この本丸では二人目の今剣と三人目の岩融が留守番を務めることになっていた。
「で? 今から打つの? 今日のデイリー終わったと思うけど良いの?」
「ええ、思い立ったが吉日とも言いますし、せっかくなので狐狙いましょう」
「配合は?」
「いつもどおり550/550/550/750で」
「優良配合ときいてからそれしかうってませんよね、あるじさま」
「数値覚えるのが苦手なもので…」
そんな話をしながら資材庫へと向かう。
どうやら今回配給された富士絵馬は四枚らしい。
そんなに期待しないでおこう、と清光は四回分の資材をかごに入れた。
恐らくこの作業を一番やっているのは加州清光だろう。
別に専属、という訳ではないが、この猫はどうにも後先考えずに行動することがあるので、
見張っていた方が落ち着くというのが素直なところだ。
今剣にも半分持ってもらって、地下にある鍛冶場へと行く。
既に気配を察知したのかわらわらと妖精たちが集まってきていた。
彼らにかごを渡すと、腕が一瞬で軽くなる。
いつも思うが、刀剣男士でさえ腕が痛くなる量を、この小さな妖精たちはよく軽々と持てるものだ。
勿論、一人で持っている訳ではないし、
何人かが群がって持っているという状況ではあるのだけれど、毎度これは感心せざるを得ない。
「じゃあ一回目」
ほい、と指定した分量を放り込んだところで、猫がヒャア! と声を上げた。
「四時間ですよ!!」
「はい手伝い札」
「おや、今回はすんなりくれますね」
「もうとめても無駄かなって」
「………そう、ですか」
そんなに私、我が侭だと思われてるんでしょうか…と猫が手伝い札をくわえるのを見てため息を吐く。
別に、我が侭だとは思わない。ただ、頑固だし強情であるとは、思う。
今剣も同じことを思っていたのか、じっとりした目で猫を見ていた。
こちらに背を向けている猫は気付かない。
そうして桜が舞い散って。
「三日月宗近だ」
「アー…」
「あー…」
「ああ…」
「なんだ、こんなにがっかりされるとは思わなかったぞ」
「すみません、もういらっしゃるもので」
「カンスト間近だしね」
「狐狩り…」
「はいはい、これで当てればもうしなくて済むよ。あと三枚あるし」
猫と加州清光の会話の横で、せっせと今剣が次の分の資源を用意する。
「二回目ー」
「ちょっと清光くん今剣くんまた四時間ですよ!」
「期待しないことだね」
「鶴丸くんの例がありますからね…」
「はい手伝い札」
「どーん!」
今剣が手伝い札を叩きつけると、また桜が舞った。
「三日月宗近だ」
「わあ」
「わー」
「物欲センサー!!」
猫はだんっと前足を踏む。人間で言うところの地団駄だろうか。
此処で小休止。
二人目と三人目の三日月宗近にさらりと説明を入れることにした。
この本丸の審神者は猫なのだ。そのことも放って置かれてはよく分からないだろう。
「なるほど、ここの審神者はこの猫さんなのだな」
三人目がひょい、と猫を抱き上げる。
「猫さんって言い方、可愛いですね」
「そうだなあ」
喉を掻かれてごろごろ言う猫に、二人目が同意を示した。
「えっ、常磐さん、可愛いって俺より!?」
「加州、そのキャラはなつかしいですね」
「懐かしいとか言わないで!?
確かに俺、最近そういうの言ってなかったけど…というか、言う余裕がなかったけど!」
「別に言わなくても清光くんは可愛いですよ」
「ならいいけど!」
「いいのだな」
二人目がくすくすと笑いながら眺めるその小休止は、この本丸の平和度を表しているようにも見えた。
なんてことを思いながら加州清光は三回目分の資材の投入を妖精に頼んだ。
三人目となる三日月宗近は猫を大層気に入ったようだった。
へし切長谷部の件と言い、本当に個体差があるらしい。
ちなみに二人目は少し離れたところに腰掛けている。
「気を取り直して三回目でーす!」
「四時間ですねえ」
「期待しないで手伝い札」
「ハイドーン」
桜が、舞う。
「大きいけれど―――」
「わあああああ!!!」
「わあああああああ!!!」
「きよ、きよみ、いま、」
「と、ときわさん!!」
「あるじさま!!」
猫を抱えた三人目へと両側から加州清光と今剣が飛びつく。
三日月宗近の腕の中からぐえ、と声が聞こえた気がしたが気にすることが出来ない。
だって。
「常磐さんの物欲センサーが、折れた…!」
「いままで、そんなことはそうなかったのに…!」
「…き、君たち、私をちょっと馬鹿にしてませんか?」
「してないよ」
「してませんが、そのあくうんはどうかとおもいます」
「…今剣くんがこんなにはっきり言うようになるなんて、最初は思ってませんでしたよ…」
一方名乗りを遮られてしまった刀剣の付喪神は困ったように頬を掻いて、
どうしたものかと横で座って見ていた二人目の三日月宗近に助けを求めるように目線をやった。
一応は現在最高のレア刀剣だからなのか、まあ少し待て、と三日月宗近は笑うだけだ。余裕綽々である。
そうして加州清光たちの興奮が収まったところで、
「大きいけれど小狐丸。いや、冗談ではなく。まして偽物でもありません。私が小! 大きいけれど!」
やっと、小狐丸はその口上を言えたのである。
「やりましたよ! 鯰尾くんバケツ持ってきてください!」
「はい!」
「ぬしさま、何故バケツなのです?」
「君にぶっかけてみたいからです!!」
「!?!?」
「あー…常磐さん、アンタの髪が本当に獣耳じゃないのか確かめたいんだって」
「触れれば分かっていただけますのに!」
「諦めなよ。アンタが来る前からずっと言ってたことだから」
20150917