天地星空



あめつちほしそら
平和ですね、と言ったのは宗三左文字の方だった。 彼の方から話しかけてくるなんて珍しいな、と思いながら加州清光はそーだね、と返す。 実際、平和だった。 この季節感皆無の不思議な箱庭で、猫の設定した夏の空で輝く天の川をいろいろな刀剣が見上げていた。 あれは天の川と言ってですね―――猫の語る人間の作り話に刀剣たちが声を上げて喜ぶのを、 加州清光と宗三左文字は輪に加わらずに眺めていた。別に、理由があった訳ではない。 ただ加州清光も宗三左文字も今日は掃除当番で、それぞれの担当の場所の掃除を終えて戻ってきたら、 縁側に丁度二人分の西瓜が残されていたのでありがたくいただいている、という訳だ。 「彼は、猫のままでいるつもりなのでしょうか」 刀剣たちの真ん中でちらちらと見え隠れするその黒について、宗三左文字はそんなことを言う。 「まぁ、そうなんじゃないの」 「呪いの解き方、などは全く調べていない様子ですねえ」 「困ってないから良いんじゃないの」 返す加州清光の答えが軽いものであるのは、今は西瓜の種を取るという他の集中すべき作業があるからだった。 「貴方は良いのですか?」 宗三左文字はぎろり、と加州清光を睨んだようだった。 「大切な主がどこの馬の骨とも分からない輩に呪いを掛けられたまま、なんていうこの現状」 「それ、そのままお返しするけど。宗三がそう思ってるからこそ出る言葉だよね」 ―――大切な、主、なんて。 最初、この本丸に顕現した時の様子からは考えられないほど、やわらかい言葉。 図星だったのか、しばらくしゃくしゃくと西瓜をかじる音だけが続いた。 口の中に這入り込んだ種をぷっと飛ばしてから、加州清光は言葉を探す。 「まー…なんていうかさ、 呪い≠チて常磐さんが言ってるから否定してないだけでさ、そういうのじゃないと思うんだよね」 「と、言いますと?」 「俺そういうの詳しくないけどさ、 呪い≠セったらもっとこう、常磐さんに不利に働くことがもっとあっていいはずだと思うんだよ。 それなのに、あの人猫を謳歌してるし、そう困ってるのも見ないし、 俺らにだって…猫だからって意味で拒絶されたことって、そうないでしょ」 「猫アレルギーを除けば、ですがね」 「ま、それは個人の問題っていうか、しょうがないっていうかさ」 へし切長谷部にはこの上なく、心底、同情するけれども。 「それに、」 加州清光は続ける。 「どこの馬の骨ともって言うけどさ……… その人が、常磐さんにとっては、どうにも出来ないくらいの運命の人なんだろーよ」 「はい?」 飛んできた声は裏返っていた。何故、そんな声を出す、と思う。 「何故、そう思うんです?」 「はァ!?」 今度は加州清光の声が裏返る番だった。 「見てれば分かるじゃん」 なんとか引き攣れた喉を立てなおして、西瓜を持ち直す。 「あれはどう見ても、恋、だろ」 見開かれる目。その反応に、ああ本当に分かっていなかったのだと知る。 しゃく、西瓜をかじる。みずみずしい甘さが口の中へと広がっていく。 「………俺、宗三は分かってるんだと思ってた」 「待ってください、もしかして他にも気付いていたものがいるんですか」 「とりあえず俺と鶴丸、安定、燭台切…鳴狐は直接話してないけど気付いてるだろうし。 あ、ああ、あと長谷部も」 「へし切もですか!?」 あの朴念仁に負けるなんて…! と言う宗三左文字はどう見ても主を大切に思う刀剣の付喪神で、 加州清光はその事実を再確認して笑ってしまった。 「何ですか、何で笑うんですか」 「平和だからかな」 「ええそうですね、平和ですから貴方が何故そう気付いたのか一から説明してもらいますよ」 「はいはい」 猫の語り口と、その周りの笑い声はまだ続いていた。 その続いた空間で彼の話をしようと言うのはなんだか、繋がっている証明のようで、くすぐったかった。
20150917