「そういえばあるじさま。あるじさまはどうしてのろいをかけられてしまったのですか?」
幼子の遠慮のなさはすごい。
本丸にて主である黒猫を囲んでいた付喪神たちの、心がひとつになった瞬間だった。
むすんでひらいて
いや幼子と言ってもそれは今剣で、
もう一千年以上もこの世にとくとくと生き続けている伝説なのではあるが、しかし。
実のところ多くの刀剣が気になっていたことだろう。
自分たちの主が猫の形をしていることに、
それがこんがらがった呪いの所為であることに理解は示していたし納得もしていたが、
やはり何故?≠ニいう疑問は拭いきれるものではないだろう。
どう、答えるのだろう。
ごくり、と広間に居合わせた刀剣たちがつばを飲む中で、猫はそんな空気気にもせずに呑気に答える。
「それが、私にもよく分からないんです」
―――はああ?
それが、その答えを聞いた刀剣たちの反応だったろう。声に出さなかったのは分別があるからで。
「わからない、んですか?」
「ええ」
猫は頷く。
「特に悪いことをした記憶もなくてですね、突然目の前に現れた女性に猫にされてしまったんです。
なんでも、貴方は世界を救わねばならない≠フだそうで…」
政府の方にも予言だかお告げだかがあったようで、
トントン拍子に話が進んでしまいましたし、と猫は首を傾げた。
トントン拍子に話が進むなんて、
今の政府がどんなものかは知らないが相当なことがなければないのではないか。
もしかして、今加州清光たち刀剣の前にいる猫は、
とてつもなく重要な人物―――猫だけれど―――なのではないか。
そんな予想を打ち砕くかの如く、猫はのんびり尻尾を降っているし、
話を振った今剣は今剣で、別のことを考えているようだった。
「あるじさまがもってきてくれたみらいのえほんのなかに、『かえるのおうじさま』ってありましたよね」
「ああ、ありましたね」
それなら加州清光が読み聞かせしてやったので内容を覚えている。
呪いでカエルに変えられた王子様が、お姫様のキスで元に戻る話。
「せっぷんをしたらもどるんじゃないですか?」
読み終わったあとで付け足された、
壁に叩きつけるというバージョンもあるようですが―――という言葉の方が選択されなくて良かった、
と加州清光はほっと胸を撫で下ろした。
猫とは言え主であるものを壁に叩きつけるなんて、流石に心が痛む。
「いえ、彼女の言うことを信じるなら、呪いが解ける方法は世界を救うしかないのでしょう」
「けれども、わるいひとのいうことでしょう? わるいひとのいうことはきいちゃだめなんですよ?」
尻尾の動きが、止まった。
「………今剣くんはいい子ですね」
思い出すように、その瞳が伏せられる。
「でも、私は彼女を悪い人だとは思えなかったんですよ」
「のろいをかけたのに?」
「呪いをかけたのに、です」
優しい声だ、とすべての刀剣が思っただろう。
そしてもう一つ、加州清光には分かったことがあった。
きっと、猫自身、気付いていないことだろう、けれど。
「…あるじさまがそういうなら、それでいいです」
「ありがとうございます」
猫が気付く時が来たら―――そうだね、と肯定をしようと、加州清光は一人、心に決めた。
20150917