冬と彗星 

 意外と刀剣たちは本を読むことを好む。
 一応仕事に関連する物品であるので経費で落とせるからまあ良いのだが、その量が半端ないことになると誰かに手伝ってもらうこととなる。現世とこの曖昧な空間を定期で繋いでいる万屋には、そういう時力自慢たちを引き連れていくことにしている…と、前置きが長くなったが、大体それが今、この寒い中庭に出ている理由になる。
 誰が欲しがったのか。そういう本の中に天体の本があったのだ。本というか、絵本に近いだろうか。とても薄くてひらがなばかりで、とてもわかり易い本だった。
 その中で。
 何故か人気を博したのは彗星だった。何でも、すうっと現れる様が良いのだという。分からなくもないが、揃いも揃ってこう気に入られるとそんなに良いだろうか、なんて思ってしまうものなのだが。
「主!」
そわそわと上気する声が呼ぶ。
「あれは彗星か?」
筆頭、と言って良いだろう。岩融は特に彗星が気に入ったらしかった。
 風呂あがりに、中庭の真ん中でぽつんと空を見上げる大きな影を見つけたのが運の尽きというか、役得であったのか。雪滑にはよく分からない。そのシルエットだけで誰か分かってしまう自分に呆れつつ、どうしたのかと声を掛けると、彗星を探しているのだと言う。そう見えるものでもないだろうに、と思いながらもつっかけを探して中庭に出て、その隣に立つ。
 暗くて、殆ど何も見えない。ただ、声の調子でその表情が推測されるくらいで。
「んな都合よく彗星が見えてたまるか…」
指差された空で光っていたのは流れ星だった。
「あれは流れ星だ。めっちゃ降ってんな。他の奴らも呼ぶか」
微妙な時空間にある所為で、空の事情まで可笑しくなっているのだろうか。そういえば最初の研修で天候や季節は時間軸の入り乱れにより一番影響を受けるのだと聞いた気がする。
「…あれが、流れている間に、」
 他の刀剣たちを呼びに行こうと、彼に背を向けたまま呟く。
「三回願い事を唱えると、願い事が叶うらしい」
足はまだ踏み出さない。
「まぁ流れ星なんてはやくて、そう唱えられるものでもないからな。金金金≠ナも難しいって話だ」
「主は金が欲しいのか?」
「例えだ。…正直、給料は良い方だし、此処にいれば使うこともないからな」
特に欲しい訳じゃない、そう言えばそういうものか、とどうでも良さそうな返事。それで良い、それで良いと思う。足を踏み出す。
「おーい、流れ星流れてるぞー!」
通らないと言われる声を張り上げる。すると中からは本当かという旨の喜色の声が上がった。顔がほころぶのが分かる。足音がするので、きっとそのうち此処も他の刀剣たちで溢れかえることになるだろう。
 本当の願いなど、三回言えたとしても、彼の前では言うことは出来ないと思った。



image song「天体観測」BUMP OF CHICKEN



2015917

***

人間と武器 

 お前は良いの、と相棒に問われたのは、自分が足を止めて向こう側にいる二人を眺めていたからだろう。加州清光はよくその二人を見る。別にそれは羨望や、その類のものではなかったのだが、大和守安定にはそう見えたのだろうか。
 加州清光はこの城の初期刀だった。だから、彼がまだ戦ごとに慣れていなかった頃のことも、ようく知っている。兵法書を読み耽りながらも作戦の指揮がそんなに上達しない彼に、それにまるで安心するような仕草さえしてみせる彼に、加州清光は問うたことがあった。
「主は…刀がきらい? 戦いがきらい?」
今にして思えばなんて言葉だった、と思う。あれほどに、睡眠時間を削るほどに知識を詰め込んでいた彼を、加州清光はちゃんと見ていたのに。
「加州は難しいことを聞くな」
けれども男は薄く笑っただけだった。疲れもあったのだろう。その笑みは本当に薄くて、彼のことを主として気にかけている加州清光でなくては気付けないだろうと思うくらいだった。
「不安にさせたんだろうな」
すまない、と謝る男に、いや、その、と加州清光が閃いたのは、自虐くらいしかなかった。
「あのね、オレが勝手に不安になったの。オレさ、………その、雪滑サンの役に、立ててるかな、って」
 その言葉に男は驚いたらしかった。それからまた、眦を下げる程度の笑みを見せて、
「お前が役に立ってるか立ってないかで言ったら、とても立っている」
加州清光の頭を撫でた。
「…僕は、あまり嘘が得意でなくてね。だから、出来るだけ嘘はつかないようにしている」
まぁそうも行かないんだけど、と男は頬を掻く。
「…お前たちを、刀剣として扱うには、僕はまだ未熟なようだ」
だから、きっと、最初にお前が問うたような疑問が湧くんだろう。
「僕にとってお前たちは…限りなく、人間に見える、から」
愛せることはきっと素晴らしいことだけれど、同じものと思ってしまえば、心が傾く。男の言葉はぽつり、ぽつりと、まるで。
「それが、戦いに積極的になれない理由、なんだろう」
祈りの、ようだった。

 「お前は分かってないね!」
笑う。
「あの人は俺らの主だよ。俺を使ってくれる。それだけで、いいんだよ」
いつか、彼が言ったように。愛することは素晴らしいことだ、悪いことではない。武器として、人間として、その形がどうであれ、悪くない。
 あのさ、と加州清光は呟く。
「俺のはさ、自己承認欲求っていうか、誰かに必要とされていたいっていう、そういう人間に作られたもの本来の欲なんだ」
人間のためにあれ、人間のためにあれ。それを強く受け継いだ加州清光は、男の言う心の部分にそれを芯として持っている。
 だから、とそれ以上続ける必要はなかった。
「もし僕が人間なら、」
相棒は言う。
「お前は大人だね≠チて言ってたと思うよ」
「…うん」
「お前は大人だよ」
「ありがと」
何よりも相棒の相槌がすとん、と心に落ちてきた。



2015917

***

無自覚と言葉 

 その日も雪滑は頭を抱えていた。目の前には次郎太刀がおり、その主にあるまじき醜態を他の刀剣の目から遮っている。そもそもこの廊下には他に刀剣はおらず、主である人間が時折不可解な行動をするのも此処の刀剣たちには慣れっこだったとは思うが。
 今日は何なのだろうな、と次郎太刀は思う。別段初心である方でもないだろうに、岩融のこととなると身体の一部分が接触するだけでも大事故、と言わんばかりのこの人間に足りないのは恐らく―――という言葉では足りない、多分絶対―――自覚、の一点なのだと思う。最初に思ったことが犯したい≠ナあったからか、彼はどうやら岩融に対するその感情のすべてが性欲のみであるのだと信じ込んでいるらしい。初恋がまだな訳でもなさそうなのに、どうしてこうなってしまっているのか。人間ではない次郎太刀にはお手上げの状況ではあったが、こうしていつまでも隠れ蓑にされるのもつまらない。
 だから、ねえ、と声をかける。
「雪滑サンはさ、敵に岩融を取られたくないと思うくらいには、アイツが大事なんだろう?」
持ち出したのは先日の会話だった。酒に酔っていても記憶の飛ぶ質ではない雪滑だ、忘れているということはないだろう。
「………はい」
案の定、返って来たのは肯定だった。何の話です、と言わない辺りちゃんと覚えているのだろう。まあ、そもそもはそういう意味で言ったのではなかったが、今はそれは置いておく。
 どうして今、その話を? と分かっていなさそうな雪滑に、視線を合わせるように次郎太刀はしゃがむ。
「なあ、もう、はっきりした方が良いと思うんだ」
「何を、です…?」
「雪滑サン、アタシはアンタがずっと気付いていないのを見てるのはもどかしくて、でもずっとアタシの判断で何を言うのも可笑しくなると思ったから黙っていたんだけどさ、」
ねえ、と次郎太刀は一呼吸置く。
「雪滑サンはさ、岩融のことが好きなのかい?」
 その言葉をまるで初めて聞いたとでも言いたげな顔をする主に、まあ鼓膜を打つくらいの役目は果たした、とため息を吐いた。



20160923

***

 今までだって、からかいまじりとは言えその言葉を投げかけられることはあったはずだった。そして、その言葉を何度も何度もそうではないと否定してきた。
 なのに、だ。
 なんだろう、この胸の異様な鼓動は。
「どうしましょう、姐さん」
思わず顔を覆う。
「これ、恋です」

無自覚と自覚 

 そのままずるずるとその場に座り込む。立っていられないほどにその自覚は雪滑にとって動揺だった。
 恋。
 四十手前の人間が、そんな、青臭い小娘のように! 自分の感情が何なのか判別もつかずに延々ともだもだ悩んでいただなんて、聞いて呆れる!
「うっわ、散々ヤりたいとか言っておいてそれ全部恋だったからって言うんですか、なんですかそれ少女漫画ですか勘弁してくださいよ僕もう四十になるんですよ、人間で言ったらいい年のおっさんなんですよ勘弁してください」
顔を覆う手が離せない。
「…本当に自覚なかったんだねえ」
「…あったと思ってたんですか?」
「まさか。でもあんまりに気付かないから、もしかしたらわざと気付いてないふりしてるのかと思ってたのさ」
「そんなわけじゃないじゃないですか…」
本当にそんな訳がなかった。次郎太刀だって本気でそう思っていた訳ではあるまい。そもそもこの惨状を見たあとで思慮深い彼がそんな戯言を本気で言うなんて考えられない。
 こんなに、余裕がないのに。
「それで、告白するのかい?」
息が止まるかと思った。
「…無理でしょう」
「そう言うと思ったけどね」
「なら聞かないでください…」
 まだ顔を覆った手は離せなかった。
 次郎太刀もそれは分かっているのか、急かすような真似はしなかった。

***

宣戦と牽制 

 「貴方は雪滑殿がお好きなのですか?」
太郎太刀の静かな声に、岩融は彼の方を向いた。その妙な物言いに首を傾げそうになりながら、にかっと笑う。
「あやつは良い人間だと思うぞ」
 刀剣というのは人間のために作られた道具だ。根底のところに、人間のために、という部分が多かれ少なかれ潜んでいる。それがきっとこうして心を持つに至ってからは、人間で言う愛≠ニいう形で発現するのだろう。少なくとも岩融はそう思っていた。勿論、心というものがある以上、必ず主を愛せるとは限らないが(事実以前の主を嫌っている刀剣もいる)、それでも自分たちを大切に扱う彼のことを嫌う由縁はないと思った。
 太郎太刀は、そうではないのだろうか。
「太郎殿は主が嫌いなのか?」
「いえ、そういうことはありません」
なら、どういうことなのだろう。
「寧ろ、好ましいとさえ思っています」
その言葉に目を見開いてから、笑みが零れた。太郎太刀が何か、と言う視線を寄越す。
「何、現世がどうのと言っていた太郎殿も、現世のものを好くことがあるのだなと思っただけのこと」
「…確かに。私もこんなにも心満たされることがあるのだと、不思議に思います。きっと彼に顕現される前の私に言っても信じないでしょうが」
「あやつには、不思議な魅力があるな」
自分を呼び出したのが、彼であるからか。最近では目で追うようにまでなってきた。行動の一つひとつが、言葉の一つひとつが、彼を作る一つひとつが。
 岩融にはひどく輝いて見えるのだ。
「…お好きなのですね」
そう繰り返す太郎太刀に疑問を抱きながら、ああ、と答える。それはお主も同じだろう? と言うより先に、太郎太刀は次の言葉を繰り出す。
「それは、彼が欲しいということ、ですか?」
―――欲しい。
「…いや。主に対してそのようなこと、いくら九百九十九の刀を狩った俺といえども思いはせぬよ」
「そうなのですか」
「まったく、太郎殿は俺のことを一体どう―――」
思っているのかと笑い飛ばそうとして、
「貴方が要らないというのなら、」
静かな声が、
「私が戴いてもよろしいですね?」
どきり、と胸を叩いていった。
 風の、音がする。もう、冬も盛りだ。軒下の氷柱の溶ける音までもが、聞こえそうな気がした。
「………ならぬ」
じわじわと侵食していく胸からせり上がった何かが、ぼろり、と唇の端からこぼれていく。どろどろと、色のないそれが音を立てて渇きを欲する。
「ならぬ、それはあやつが―――六花が、」
「それを、」
太郎太刀は静かに口を開く。
「それを決めるのは雪滑殿だから、ですか?」
「………そう、だ」
「そうですか」
 胸が、こんなに嫌な音を立てているのがどうしてなのか、岩融には分からなかった。

***

月と返事 

 今日の月も丸く輝いていた。微妙な時空間であるからか、空も此処では様々な表情を見せてくれる。一週間ずっと満月だなんて、こんな空間にいなければ体験出来なかっただろう。プラネタリウムにいけばまぁ出来なくもないだろうが、やはり本物というのは技術がどれだけ進んでも良いものである。手軽にいろいろなものをヴァーチャルで体験出来る時代に生まれた身でも、一欠片しかない本物の価値というものは分かる。
 そんな一週間にも渡る月見を邪魔したのは、やはりというか前回と同じものだった。
「…岩融」
呼ぶ。何処かかたい表情は、目的があって此処にいるからか。
「………歌仙兼定に、聞いてきた」
「こうして来たということは理由を聞かせてもらえるのかな?」
こほん、と咳払いを一つした岩融はこの間と同じように、隣に腰を下ろす。今日は肩を借りに来ないらしい。残念だな、と思って手を膝の上へと置いた。いや、そもそも
この間のようなことをする方が珍しいのだ。抱き締めたり頭を撫でたりのスキンシップには積極的なようだが、別に所構わずベタベタと言った性格でもないように思える。
「その、な。六花」
緊張した面持ちだった。自然とその緊張がこちらにも伝染する。すっと背筋を伸ばしたところで、岩融は大きく息を吸った。
「俺は、お前になら…折られても良いと、そう思う」
 ぱちり、と自分の瞬きが聞こえるようだった。
 まさか、その方向で言葉が返って来るなんて思っていなかった。確かに歌仙兼定に聞いてみろと言ったのは自分だったし、彼ならそちらの意味も知っていて何らおかしくはないのだが。
「歌仙はなかなかに情熱的なことを教えたものだね」
予想外故にそんな返事しか出来なかった。
「…六花」
「なんだ」
「理由には足りただろうか」
 岩融はこちらを見ない。
「歌仙は、その言葉を何という意味だと?」
「………理由は、足りなかったか」
いや、そうじゃない、と笑う。
「僕の言った意味と同じだと言っていたか?」
「そういえば、厳密には違うと言っていたが…」
やはり。歌仙兼定はそこまで知っていた。
 知っていてこの言葉を教えたというのならばなかなかの食わせ者だ。
「うん、そうなんだ。実際にはお前の言った方は少し違う意味なんだよ」
これを教えてくれたのは二番目の兄だった。活字中毒というのはあれのことを指すのだと、そう思わせるような人だった。本は勿論、新しいものから古いものまで、インターネットであれこれ読んでいたと思えば、古いマシンを起動してログを読み取ってみたりと、しかも読むのが異様に早いのだ。それでそれがしっかり頭に入っているというのだから舌を巻く。
「その元の文章はヴァーシャ=B意味は、」
 その耳へと寄せた口元は、月から隠せただろうか。
「貴方のものよ=v
今度は岩融が瞬く番だった。
「情熱的だな?」
照れくさくなってまた笑って離れると、それを引き止めるように掴まれる。
「…そうだな。でも、そちらの意味でも、相違ない」
「…そうか」
「そうだ」

 月が、とても綺麗だった。

***

自覚と無自覚 

 非番の日、廊下を歩いていると向こうからやって来る主とすれ違った。何やら機嫌が良いように見える。
「何か良いことでもあったのか?」
そう聞いてみると、遠征部隊が帰って来たんだ、と男は言った。
「今日は太郎さんが玉鋼を大量に見つけてくれてな」
うちは玉鋼が不足しがちだから、助かる。それを聞いて岩融もそれは良いことだ、と頷いたはずだった、つもりだった。
 むぐっと変な声があがって初めて、自分の手が勢い良くその口を塞いでいたことに気付いた。
「あっ、主、すまぬッ!」
慌てて外すと、いやべつに、という返事。
「でも…どうしたんだ?」
「いや…何でもない」
「………そうか」
自分でもどうしてそんなことをしたのか本当に分からなかった。もう一度謝ってから別れる。
 心臓がどくどくと煩い。
―――ああ、
 それ以上聞きたくないなんて。



雪滑さんと岩融の今日のお題は、『それ以上聞きたくない』です。
http://shindanmaker.com/517833

***

未来と時間 

 年を取ったなあ、と思うことがある。こんなに付喪神に囲まれておいて年を取ったなんて、まるで戯言だったけれども。それでも少し開けた場所で遊んでいる彼らを見ると、そんなことを思うのだ。
 子供を持ったことのない雪滑にとって、子供とはこんな感じなのだろうか、と思わせるもの。姪も甥もいるのに、またそれとは違った感覚。繋がっている、繋がっていないのに繋がっている。そんな心地が、ずっとしている。
 この戦はいつか、終わるものだ。そうなったら審神者としての役目は終わりで、呼び出した付喪神たちもまた、ただの刀剣へと戻るのだろう。人の愛されたもののまま、そこに更には人を助けたものだと、価値が負荷されるだけで。
 今こうして雪滑と向き合っている彼らの人格は人間の崇める何かに集約され、消える訳ではないだろうけれども雪滑の前からは姿を消してしまう。
 走り回る中に混ざる彼を、呼ぶことは出来なかった。消えてしまう、消えてしまう、何処かへ行ってしまう。まるで、最初からなかったように、戦争なんかなかったように、修正された歴史なんて、修正し返した歴史なんて、なかったかのように―――だから、一緒にいたいなんて。
「…こちとら、いい年のおっさんなんですけど…」
 蹲るには向こうからこちらは見えすぎていた。



だから、一緒にいたい
http://shindanmaker.com/392860

***

 畑を手伝いに行ったらトウモロコシ畑の向こうから隠れていた岩融が飛び出して来て、死ぬほど驚いた。

緑と海 

 結果、見事にそのまま後ろにひっくり返りそうになり、そのままでは思い切り頭をぶつけることになるからとなんとかそれを阻止しようと頑張ったら足を捻った。見ていた岩融が思わず悲鳴を上げるほどの捻り具合だったようだがまあそんなに嫌な音はしなかったし、一日冷やしていれば大丈夫だろう。捻ったと言っても足をついて歩くことは出来るし、そりゃあまあ多少は痛いけれども。
 だから大丈夫だと言ったはずなのだけれども。
「すまない………」
思わず目の前の肩を掴む手に力が込もる。こんなちっぽけな人間がどれほど力を込めたところで彼には何も変わりはしないのだろうけれども。
「いや、俺が馬を驚かせたからだ。大事なくて良かった」
「でもやっぱり背負うまでじゃないと」
「俺の責任なのだ。城に戻るまでくらい何かさせてくれ」
その言葉に渾身で悶たかったものの、彼の背中にいるということで結局理性が保たれ、見ていたにっかり青江にめちゃくちゃにからかわれたのだった。



軽くおんぶ
http://shindanmaker.com/a/200050

***

雪と風 

 雪が降っていた。外の世界と同期しているらしい景趣が冬に入って、よくこの庭には冷たい風が吹きすさぶ。それは雪滑にとって故郷を思い出させてくれるものだった。自分の名前のこともあるが、故郷の冬はこの箱庭とは比べ物にならないくらいに厳しいものだった。人間を拒絶するような、白銀の世界。それは人間を呼ぶでもないのに、ずっと傍にあるから。
「主」
腕を引かれる。
 振り向くと岩融がいた。いつの間にやってきたのだろうか、そのまま廊下まで連れ戻される。
「どうした、何かあったのか」
「違う。そうではないが…」
何処か歯切れが悪い。
「主は人間だからな」
 そうしてやっと、少し前に風邪を拗らせていたことを思い出した。あまりに治らないので一度現世に戻って医者にかかれと総出で怒られ、点滴をされたり何だりしてきたのも記憶に新しい。それを気にしているのだろう、と思い至って、何だか笑みが湧いてきた。
「………岩融は、優しいな」
「優しいだろうか?」
「優しいよ」
でも、雪の中にいたくらいでは風邪は引かないよ、と言えば胡乱な目線が向けられた。信用されていないらしい。
「僕が人間だから、頼りないのかな」
「何故そんな話になる?」
「では、どうしてそんなに優しくする?」
 頼りないのは百も承知だ。でも、どうして―――その先を、求めたくなる。どうして気にかけてくれるのだろう、前はそんなことはなかったのに。初期刀や初鍛刀と言ったような目に見える特別がある訳でもない。彼らにとって審神者は、ただの媒介者であるはずなのに。
「………六花が、」
喉が、渇く。
「六花が主だから………だけでは、ないな」
 振り返ったその顔は今まで見たこともないような感情の入り混じったような笑顔だったので、結局それ以上は何も聞けなかった。



冷たい風が吹いて寂しそうな顔で「どうしてそんなに優しくするの?」
http://shindanmaker.com/123977

***




20170502
20170712