牙は立てないから安心してね 

  寒い日だった。
 この人の母星はとても寒いから、きっと喜んでいるだろう。地球には雪が降ったりもするのだし、そのうち外を駆け回り始めるかもしれない。猫のような性格をしているくせに、犬のような行動をする人なのだ。
「月見里」
やわらかな声が、呼ぶ。その声を聞くと、もう身体が勝手に動くようになっていた。刷り込みだ。けれども月見里にはそれがとても嬉しい。
「寒いね」
その言葉に、瞬いた。この息も凍りそうな空気の中で、薄着でいる者が。どうして寒いなんて冗談を言えるのか。まさか月見里が分からないとは思っていないだろう。だって、こんなに長く一緒にいるのに。
「ねえ、月見里。聞いていた?」
 振り返った顔はいつもと同じように笑っている。
「僕は寒いって言ったんだよ」
「…上着?」
「えー。それだと、月見里が取りに行く間寒いまんまじゃん」
もっと方法があるでしょ、と言われて、やっと月見里には彼女が何を望んでいるか分かった。
 分かったが、それは。
「…ロード」
「うん」
「僕、男だよ」
「知ってる」
「知ってるけど、分かってないんだね?」
「分かってもいると思うよ?」
じゃあ、どうして。
 胸が鳴る。伸ばした手が、自分より大きな、でもどこそこ頼りない身体を包み込む。
「…ねえ、ロード」
「ああ、月見里はあったかいねえ」
「ロードってば」
「君と僕がくっつくことに何の問題もないだろう?」
「あのね、」
くるり、とその身体を回してやる。
「僕の気持ち、知っているでしょう」
「気持ち?」
さてなんのことやら、と惚ける顔を確信する。
 だから、これは仕返しだ。犬に手を噛まれれば良い。
「…本当は、分かっているんでしょう?」
いつもよりも低い声でら意図して耳の傍で囁けば。
「…君、そんなの何処で覚えてきたの…」
 そこからぐるっと、紅が広がるのだから。



やまちゃんからロードへの愛の言葉:息も凍りそうな冬の日に、微かな声で「本当は分かっているんでしょう?」
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20170306