かくもか弱きその掌 天龍+龍田+俺提督

 その肌が見えてしまう程に破れた服。焦げて黒煙を上げる彼女を、それでも尚いやだと駄々をこねる彼女を、ドックまで引きずっていくのも、この司令部に着任した司令官である私の仕事だ。
「死ぬまで戦わせろお!」
そう叫ぶ彼女は痛々しい。戦が、彼女の目の前で死していくその人間たちが、彼女にそう言わせているのだろうと、予想は簡単についた。
 彼女だけではない。これは、彼女たちすべてに言えることだ。
 例えその肌の上で何人の人間が死のうとも、死体の焼ける匂いが、腐っていく匂いが、その身に染み付いていても。彼女らを指揮するのは私たち人間の仕事であり、その責任はどう足掻いても人間のものでしかないというのに。
 共に死ぬことが許されない自分を、責めるように。
 それを欠点とは思わないが、美点とするのもどうかと思えた。死にたがりの艦になど誰が乗るだろう。血の気が多いのは良いことだ、だが死に急ぐことは褒められない。
 どうしたもんか、と軽く頬を掻いた私よりも、先に痺れを切らしたのは、私たちの後ろを黙ってついてきていた彼女の姉妹だった。
 ぱしん、とそのいっそ小気味良いほどの音は、喚き続けていた天龍の頬が張られた音。
 驚いたのか、張られた部分を抑えることもせずに天龍は龍田を見つめる。そういう私も、彼女の手を握ったままぽかん、と二人を見ているだけだ。
「ゆるさない」
そのぼろぼろの襟首を掴み、血の気のない顔で龍田が凄む。
「私より先に死ぬなんて、許さない」
静かな、声だった。しかしその声には普段作戦中でも聞いたことがないような、青白く燃えるような怒りが奔っている。
「ゆるさない」
 一際、死というものに敏感なのだろうと思っていた。何処か楽しむように砲撃をするのも、罪悪感に押し潰されないためだろうと。
 「…悪い」
「ゆるさない」
泣き崩れるようにその胸へ頭を預けた龍田の後頭部を、天龍がぎこちなく撫ぜる。
「ああ、ごめん」
「…どうしても、」
「ああ」
「どうしても、死にたいなら、私が沈めて(ころして)あげる」
「ああ」
「それ以外は、ゆるさない」
きっと涙は流れていなかった。



(ごめんなさいと、謝る先は一体何処に定めたら良かったのだろう)



20130809



20180509 編集