蝶喰らう イオキベさんと花森くん ばり、ばり、と音がするような気がする。骨の細かい部分まで磨り潰していくような音。それがどれほど恐ろしい音であろうと耳を塞がないのはもう慣れてしまったからなのだろうか、それはそれで生命というものに対する頓着がないのではないかと思う部分もあるのだが、元よりそれが五百旗頭の日常だった。何も不思議なことがなければ人間などそもそも存在していない、否、存在しているからこそそういうものを視るのだろうか。真面に育ってしまった知識が警鐘を鳴らす。どうにだって出来ないような音を笑う。 ―――おばけなんていないよ。 おばけはいなくとも人間はいるだろうに。 しかし、と思った。ばり、ばり、と固いものをかじる音はいつまでも続いている。部屋の隅にはいつの間にか蜘蛛の巣がはっていた。本当に、いつの間に。掃除をしなければ、と思う。彼と、目が合う。どうして入り浸っているのか、かじっているのは何なのか、聞く気も起きない。ごきぶりを好んで食う生物などいないだろう。なのに、この若者は。それとも。 生物ではないと、でも? 否! と声がする。脳の中から、五百旗頭の頭の中から知識が悲鳴を上げる。食べるのだ、何だって、喰らって喰らって力にする。自分の血肉に、自分のものに。何もかも―――何もかも! あァ、同じじゃないか、薔薇も、蜘蛛も。そう気付いたときにはもう遅い。蜘蛛の這い回る動線の中にいる、人間だから、人間じゃないから、何でもないから。記事にしましょう。逃げ場所なんか、とっくに潰されて。 うつく、しい。 「僕に―――ください、全部、を」 これが夢だと分かる反面、絡め取られてしまうのも悪くないなんて。 * (私はいつから蝶になってしまったのか) |