邦弥さんがどうしてもハイスペックにならざるを得ないのは主の所為だ えび+くに

*邦弥さんの能力は別に完全支配じゃないよって体で書いています

 「チョコレートを、作りたいんだ」
その言葉に、思わずパードゥン? と問い返さなかった邦弥は褒められるべきだったと思う。
 邦弥の主である恵比寿は神である。狩衣姿で右手に釣り竿、左手に鯛を抱える姿でお馴染みのあの恵比寿様である。まぁそういう姿をしているかと問われると答えは否であり、すきっと爽やか黒の短髪に、少しばかり表情筋が職務放棄しているクールなご尊顔、商業の神らしくきちっとしたスーツ姿というのが今の恵比寿だ。
「明日はバレンタインだろう」
その恵比寿がきゅっと、直せもしないネクタイを直すふりをしながら続けた。どういうことなのだろう、邦弥は固まったまま次の言葉を待つしか出来ない。バレンタイン、チョコレート、その単語を並べられれば誰かに渡したいのだろうかと、そういう想像をすることは容易い。容易いが、一体相手は誰だと言うのだろう。別に七福神の中でも大国主と並んでツートップとなっている恵比寿は、恋愛ご法度などという縛りは課せられていないのだから、別に誰にチョコレートをやろうと問題はないのだが。一体、いつ、そんな相手に出会ったのだろう。
 そんな邦弥の内心を悟ったのか、ああ、と恵比寿は呟いた。
「皆に、いつも世話になっているから。最近日本では世話になっている者にチョコレートを渡す風習があるんだろう?」
「まぁ、ありますが」
確かに日本においてのバレンタインデーというのは製菓会社の策略に始まり、今では好いた相手のみならず友人や同僚などにもチョコレートを贈る日になっている。なるほど、それならば納得だ。
 しかし。
「若、お尋ねしますが、それは若ご自身がお作りになるということでしょうか?」
 別に、神がチョコレートを作ることに問題がある訳ではない。しかし、それが己が主である恵比寿となれば話は別だ。何しろ一人では靴紐も結べない程の運動音痴(靴紐を結ぶという行為が運動に含まれるかはこの際置いておく)であり、身内の贔屓目で見たところでチョコレートなんてものが作れるとは思えない。例えそれが溶かして固めるだけの行為だったとしても、だ。
「私にそんなことが出来ると思うか?」
どことなく自慢気なその様子に、はぁ、と邦弥はため息を吐いた。





20160803