これはある意味水面下の戦争だ!


漆黒に映る AvsO

 Hが頬に大きなひっかき傷を作ってから数日後―――。Oは閉館日の図書室に忍び込んでいた。日差しが気持ち良い。
「これで抱き枕があれば最高なのに…」
ごろり、と本棚の上で寝返りをうったOは、
「…あ」
図書室の白猫と目があった。
 「………君が、O?」
その声は澄んでいて美しいとさえ思わせるのに、ひどく、冷たい。
「―――」
Oは棚から降りて、彼を真っ直見つめた。
「Hに聞いたの?」
「いや、自分で考えた結果だよ」
Aは持っていた本をカウンターに置いて、整理を始めた。そのまま、Oに訊ねる。
「君は、Hのこと、好きなの?」
「!」
どれだけ近づこうと、モルモットはモルモット―――
「そんな訳、ないじゃん」
孤独を語っても、
「何で僕があんな奴に」
自分を認めても、
「好意を持つと、思う訳?」
実験動物には、変わりない。
 「…そう」
それを聞いたAは穏やかに微笑んだ。
「それは良かった。だって、俺はHのことが好きだから」
〝それ以外〟の理由。
「あんな奴の何処が良いの?」
OはAに近づく。
「いろんな人に手は出す…表情も固い…ルームメイトとして、煩わしいことこの上ないんじゃないの? 本当は、ここの奥では」
Aの胸に手を充てて、
「Hを憎んでいるんじゃないの?」
 AはOの手を払いのけた。
目が笑っていなかったのは、図星か、それとも。
「所詮、君も同じ穴のムジナさ」
すっとAが横を通っていく。
「君はもう、Hから離れられない」
興味を持ってしまったモルモット。処分することはおろか、自分の傍から離すことさえ。
「Hを、手に入れたがっているから」
漆黒の瞳に映る、自分を求めて。



(一時だけでも良いよ、その眼に、僕を映して)




「ヒィ!!」
「ああ、また貴方ですか。今度は何ですか?」
「…ムジナって、何」
「………は?」



20090525
20221202 改訂