電話の向こう側 ハナ→ミヅキ→カズラ

 忘れていいよ、と言ったその瞬間の。自分の唇の震えまでしっかりと覚えていた。きっと生涯忘れることは出来ないと思う。
「忘れていいよ」
その言葉がどれだけ残酷なものなのか分かっていて言った、その罪は永劫消えないのだから。

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いつの日か カズラ→ミヅキ

 彼はあの手紙の束を今でも持っているのだろうか。実は僕も、渡せない、渡せなかった手紙を一通だけ持っている。宛名も、署名もない、中身だって書いていない、白紙の、手紙とも呼べないもの。ただ一言でも、好きだ≠ニでも書いてあればまだ、それらしかっただろうに。そんなことも出来ないで、僕はこれを手紙と呼ぶ。
―――もしかしたら、
いつか。
 彼が、これを受け取るかもしれない日を想像しながら。

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光る喉 ハナ→ミヅキ

 嫌だ、と思う。喉がひゅうひゅうと詰まって言葉にはならなかった。
「僕は嫌だ」
叫んでいるはずなのに誰にも届かない。誰にも、ミヅキにも、届かない。…届かせ、たくない。
「あの人がミヅキを好きになるなんて、そんなの理不尽だ」
自分だって理不尽なことを言っている、分かっている、だからこの喉は動いてくれないのに。
―――ミヅキ、
名前すら呼べなくなってしまったら、僕は一体どうしたら良いのだろう。

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残らない花束 H←A

 好きだよ。
 僕のルームメイトはそっと囁く。世界でいちばん奇麗かもしれない、なんて思う声で。A、好きだよ。其処に嘘はない。彼の言葉はいつだって真っ直ぐだ。真っ直ぐ過ぎて眩しいくらいに。その理由を考えようとしたことはあるけれど、多分本能だとかでしか説明が出来ないものだから、そして僕はそういうものがあまり、好きではないから。考えるのをやめた、気がする。彼がカガチを執拗に求めるのも、ヌカズキに手を伸ばすのも、声だけ残るあの少年に寄り添うのも。
 全部。
 彼がそう、望んだから。
 望まれていないのはひとつだけ。好きだよ、その言葉に僕は、今日も真面な返事をすることをしない。

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白昼夢 H←A

 応えてしまったらどうなるかな、なんてことを時折思う。どうしようもない焦燥が腹の底から、耳まで迫り上がって。
「A、好きだよ」
その好き≠ヘ僕の欲しいものではないのに。僕はちゃんと、彼の言った意味と同じものを返せてしまう。
「―――うん。僕も好きだよ、H」
これはただの友情、求められているのはそういうもの。いつか終わりが来るのなら、いつか離れなくてはいけないのなら。
 彼の記憶に残らない方がまだマシだ、なんて。そんなのはきっと、ただの臆病風なのだ。

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20221201