Underground battle area ぐだデル

  好きだよ、アンデルセン。それは言葉にされないものだった。したところで応えがあるとは思っていないけれど、あったらあったで困ってしまうから。そうかと流されているうちは良い、でも、もし。
 俺も好きだ、なんて。
 言われてしまったら? それは傲慢な思考だった、それでも心配することからは 逃げられなかった。ただただ好きだよ、と舌の裏で繰り返して、嫌いとも言われない日々を満喫している。している、ことにする。
―――好きだよ、アンデルセン。
 一人の人間のように、その影法師を愛しているよ。



海を彷徨う人魚の嘆き @sirena_tear

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世界は平和になりました ぐだデル

 仕方ないよね世界が平和になったんだからそれでえらい人達が来てなんとかしてくれるならきっとその方がよくてオレの我が侭なんて通らないの分かってたし我が侭言うつもりもなかったよだってオレ物分かり良いから、だから、アンデルセン、「泣くくらいならさよならなんぞ言わなければ良いものを」



image song「メーベル」flower(バルーン)

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可哀想とは言わない君は ぐだデル

 アンデルセンってオレのことどう思ってるの? と聞けるだけの勇気があればそれはそれでまた違った物語になっていたんだろうなあ、と思う。思うんだけれどもやっぱりオレはアンデルセンにそんなことを聞けなくて、よしんば聞けたとしてもどうせ応えなくて良いよって言ってアンデルセンがいつもの通りにまたかよみたいな顔をしてオレをめんどくさそうに見るのに安心して、ただそれだけで、世界が回ってるような気がして。
「主人公のくせして」
はん、とアンデルセンが言う。
 真っ白なシーツに転がったまま、死んだような顔でアンデルセンは言う。あの死んでません、の逸話って本当なのかな、アンデルセンは死にたくなかったのかな、それとも殺されたくなかったのかな。だって生きたまま生められるのって普通、殺されてんのかなって思うじゃん。当時の環境がどうだか知らないけど、ていうかそもそも本当かどうかもオレは調べてないんだけど。
「うん」
 オレは頷く。アンデルセンがまた筆をとることを知っているから、其処では幾らオレがモデルの主人公が活躍していたとしても美化されていたとしても可哀想になっていたとしても悲しくなっていたとしても、オレには関係がなくて、アンデルセンはオレにそれを見せなくて、多分マシュには見せているんだろうけれどマシュもその内容には触れないからオレは結局知らないままで、知ろうともしなくて。
 ああそうだよね、と思う。
「だから好きなんだよ、たぶん」
めんどうなやつだなお前、なんて顔はもう、見慣れていた。



海を彷徨う人魚の嘆き @sirena_tear

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鞄の中 ぐだデル

   「俺だって夏くらい楽しんでたんだよ。向日葵だって見に行ったし写真撮ったりとか、置いてきちゃったけど、アイス…ああ、アンデルセンは氷菓って言った方がそれっぽいのかな、いやアイスって言うアンデルセンも良いと思うけど。だからさあ、アンデルセンと楽しみたいなあってそんなことを、思って、」
 いたんだよ、という言葉は影に消える。



文字書きワードパレット
8 向日葵/氷菓/影

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境界線とワルツ 燕シェ

 いつかアンタときれいな場所に行きたいなァ、と燕青が言うのを手首を掴まれながら聞いている。どうせこれに拒否権などはない、誘拐に等しいおこないをされるに違いない。
「星を見てさ、アンタの詩とか物語を聞いて」
それで白波を踏みつけながら夜を辿るんだよ、と言う彼はキャラクターの割にはひどく、表現者じみていた。



文字書きワードパレット
19 白波/星/手首

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最深海で深呼吸 ぐだデル

 此処は世界の一番底みたいだ、なんて思っても言うことはしない。だって言うべき相手はいないのだから。さっさと座に還ってしまうなんて、なんて冷たいのだろう! 幾らでも罵倒して甘えてそんなずるずるとした言葉でもって崩れていたいのに、彼はもう、何処にもいないから。例えこの先何かがあって彼がちゃんと俺のことを覚えていて、奇跡のような連続性があって、どうしようもない物語だって、腐れたハッピーエンドだって、笑い合えたとしても、それでも彼がもう、俺には必要なくなってしまったという事実は変えられないものだから。
「だから、かな」
きりきりと胸が痛むのをそのままにしている。
―――息が出来ないのがこんなにも心地好いよ、アンデルセン。



@ctitle_bot

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重ねる矛盾 ぐだデル

 どうしようもないことってきっとあるんだよね、と、それは恐らくベッドの上で吐くべき言葉ではなかったのだろう、と思う。それでもアンデルセンはこの少年に、その程度の苦言ですら言ってやれないのだ。
「どうしようもないから俺に好意を伝えていると?」
「そうじゃないよ」
「分かっているがな」
「アンデルセンってそういうところ優しいよね」
 こんな悪意に満ちた言葉ですら優しさと捉えてしまうのは、アンデルセンから見たらよっぽど呪いのように見えた。



[helpless] @helpless_odai

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海底まで3cm ぐだデル

 単なる夢を見ることは少なくなったな、と思う。だってこの世界は今消滅の危機に瀕していて、唯一最後の抵抗の手段となってしまったオレはどうやったってそういうものの受信アンテナになってしまう訳で。厄介だなあ、と思ったことはなかったけれど、普通に夢を見ることは珍しくなったな、と思う。まあ、今見ているのが夢だと分かってしまうので、それは明晰夢と言うのだと分かっているし、元からそういう夢を見ることが多かったかと言うとそうではないのだけれど。
 それでも、何にも関係なく、ただオレの中で起こる思考の整理は、久しぶりで。
「このまま起きなかったらどうなると思う?」
オレの記憶から再現された青い髪の童話作家は、オレの記憶の通りにハン、と鼻で笑って手を差し伸べた。どうやらオレの記憶では声まで再生してくれないらしい。
「…だよね」
 だからオレは笑う。
「アンデルセンならそうするって思ってた」
取った手に、温度はなかった。此処は夢なのだから当たり前だった。

 でも、このまま。
 沈んでいけたら、きっと幸せだったのに。



黄泉 @underworld_odai

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命の大小は変わらないって言うけどさあ ぐだデル

 奇麗事だよね、とそんなことを言わないのはもとよりの人間性か、まるでハンス・クリスチャン・アンデルセンとは違った道を歩んできたのだな、と否応無しに突き付けられる。どうしようもなく天才性など持ちうることもなかったはずの子供が、いつか天才にならなくてはいけない状況も、天才に成りきれず死んでいくだろう状況も、ただただ馬鹿馬鹿しいと思うのに。アンデルセンにそれを止める術はない。ただ子供が拙くささやく愛なんてものを聞いて、聞き入れて、手遊びの要領で相手をしてやるだけ。
「でも俺が死んだら世界が終わっちゃう訳じゃん」
甘えることもしない子供は、本来そういう仕草で生きてきたのか、それともアンデルセンの姿もまた子供であるからか、その判別はしたくなかった。この世界の何もかもを美しいと、受け取ってみせるような空色の瞳が、いつか曇ることを汚い大人として教えることは出来なかった。
「マシュも」
 身を守るのに、純粋性など不要なだけなのに。無垢な読者を守ることを、アンデルセンは黙認している。
「そのように気負うことに意味はあるのか?」
「どうだろうね、ないかも」
「あの純真なる読者にねぎらいの一つでもかけてやれば良いものを」
「難しくて」
「大切なんだろう」
「マシュは大切な後輩だよ」
噛み合わない会話を放置する。水の中を泳ぐ魚のように。
「だから、さ」
呼吸、が。
―――泡に、なって。
 俺みたいなこと思って欲しくないんだ、と。そんなことをいう子供に、お前が死んでも誰も悲しまないから、なんて嘘も吐けなくなってしまったのは一体、誰の所為だったのだろう。



海を彷徨う人魚の嘆き @sirena_tear

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逆光の先 キリぐだ

 夢を見た。君に渡す林檎はこれがさいごだ、と誰かが言う夢。知っている声のはずなのに、どうにも思考がはっきりしない。夢の中でも今までずっとあちこち動いてきたのに、普通の夢というのはこういうものだっただろうか。誰かが、ふっと笑った気がする。誰だか分からないのに、とても優しい笑い方をするんだな、と思った。もっと見たかった、とも。知らない人にそんなことを思うのならばおかしな話だっただろうけれど、単に思い出せないだけのようだから別に、おかしくもなんともないのだろう。
「未来を確定させるような力は、どうにも持てなかったけれど」
ころん、と林檎が転がる。金色の、まばゆいもの。
「きっと未来は、君自身が掴むだろう。それを見られないのは至極残念だが―――」
 必ず未来で待っているよ。
 ふわり、と嵐の匂いがして、はっと気付いたらいつもの天井を見上げていた。憂鬱さは、欠片もなかった。

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20221201