毒を仕込むには些か白すぎる ぐだデル *現パロ 皿が好きなのか、と問うことをしなかったのは恐らく皿が好きな訳ではないのだろうとそう思っていたからだろう。白くて大きくてきれいでねえ先生知ってた? アレってバウンドするんだよと毎年嬉しそうに繰り返す男がそこまで皿が好きな訳ではないことは観察していれば自然と分かったし、そもそも男に対して最早観察だとかそういう次元のものではないことをしているような気がするのでこの話は此処で留め置くことにする。兎にも角にも、皿が好きだという訳でもないのに男は毎年毎年飽きもせずに同じようなパンを買ってはシールを集め、皿に替え、増えた皿を自慢してくるまでがワンセットだった。それはそれで楽しそうなので良いとして。 どうしてなのか、と問うことをしなかったのは皿が好きな訳ではないと思っていたのと、そしてきっとその先にある答えを知っていた所為なのだろう。 「楽しいか」 「うん楽しいよ」 「そうか」 「先生もやる?」 「オレは良い」 「そっかあ」 今年も何処で貰ってきたのか既に男の手の中に台紙はあった。既に半分ほど埋まった台紙。 「そういえばさあ、スーパーのシール、幾つか剥がされてるの見つけちゃって」 「ほう」 「あれって泥棒だよなあって思っちゃってさ。正直そこまでして欲しいかなってちょっと悩んじゃったけど普通に狡いよね」 「ああ、そうだな」 「なんだろうね、お皿は欲しいんだけど、そういうのって本末転倒っていうか違うっていうか、何だろうね?」 「お前が分からんものがオレに分かる訳ないだろう」 「えー」 食べ終わった袋から、シールが剥がされていく。ピンク色のシールが、きっとほんの少しだけその指先を汚していく。目に見えない、気にも触れない程度に、少しずつ、少しずつ。 「集まりそうか」 「うん。妹も協力してくれるし」 「そうか」 「でも先生が協力してくれるならオレは嬉しいなあ」 「考えておこう」 「ヤッター」 そうして何十年も経てばきっと劣化しただろう指先を、きっと誰も見ることがないのだろうとそんなことを思って笑っておいた。 *** ゆめかうつつかまぼろしか ぐだデル 世界を救って欲しいんだよ、なんてたちの悪い冗談だと思った。思ったからそれより先に突っ込んで話を聞かなかったのだし、そもそも今更だと思っていた。 「だからってこれは何なんだ。また小さな英雄王の仕業か」 「そうやって全部子ギルの所為にするのはよくないと思う」 「じゃあ貴様の所為にしてもいいのか」 それは困るなあと笑うマスターを見ているとこっちまで頭が悪くなりそうだ。 「ええとね、アンデルセン、此処に説明書があったんだけど」 「説明書」 「その杖から落ちたんじゃない? で、これによるとね、」 「いやそもそも昨夜お前が妄言を吐いたからじゃあないのか」 「俺魔術師の素質はあるけど魔法使いじゃあないし、そもそも魔術だってすぶの素人だと思うんだけど魔術ってこういうの出来るの」 「良いから黙って説明書を読め」 はあい、と割合大人しく従ったマスターに嫌な予感はしていた。 「一、魔法少女は世界を救うこと。一、魔法少女は悪と戦うこと。一、魔法少女は多少恥ずかしいことになってもめげないこと。一、」 「待てどれだけ続くんだ。そしてそれは本当に説明書か?」 「説明書っていうか十ヶ条感あるよね。まあ次で終わるんだけど」 「早く読め」 「自分で読んだら良いのに」 誰の所為でこうなったと思っている、とばかりにじろりと睨んだが、そもそもマスターはこの視線に慣れきっているのであった。それにマスターはこの件に本当に関与していないらしい。 それでもマスターは続ける。 「一、魔法少女は清らかなおとめであること」 「おとめ」 「ちなみにおとめって漢字じゃなくて平仮名なところに突破口ありそうだなーって俺は思うんだけど、アンデルセンはどう思う?」 にやにや笑う少年を、とりあえず一度この杖で殴っても許されるだろうかと思った。 *** 浴室の獣 ぐだデル ポカリスエットに漬けたら四肢を切り落としてもどうにかなるものなのかな。そんな物騒なことを呟いたというのに先生の表情はいつもとあまり変わらなくてあれオレ今そんなやばいこと言ってないんじゃないか? という気分になった。気分になったがまさかそんなことはなく、ただ単にオレの奇行に先生が慣れきっただけの話だった。つまり愛の力。やったね。という冗談(冗談ではないけれど)はさておき、先生はいつも通りの表情でどうにかなるかもしれないが恐らくお前の技量では無理だ、と言った。 「ええ、そうかな」 「そうだろう、お前は不器用だ」 それに、と先生は続ける。 「痛いのはあまり好きじゃない」 その言葉に一瞬あれっと来てそれからやっぱそうだよね、なんて返してまるまる五分経ってから痛いのは≠チてつまりそういうことでは? と思い当たって思い切って聞いてみた。大体いつも思い切ってるけれど。 「先生ってさあ、きもちいいは好き?」 あまりにも時間差だったので少々先生が面食らって、それから馬鹿じゃないのかと身体から力を抜いたのでつまりそれはそういうことなので大人しく望まれた通り獣になることにした。 四肢がどうこうのことは翌日の朝まで思い出さなかった。 *** 愛を知らぬ子供でしょうか(いいえ、いいえ!) ぐだデル *現パロ 風邪どう、と部屋を覗いてみれば座薬プレイでもしに来たのかと完全にイカれたみたいな発言をもらったので流石に心配になって熱を測った。解熱鎮痛剤が効いているらしくそんなに高くなかった。でもやはり何処か苦しそうで代わってあげられたら良いのに、なんて思う。そうしたらきっと先生がオレの面倒を見てくれるかもしれないから。いやこの状況もそこそこ美味しいんだけどそれはさておき。 「苦しい」 そのまま暴言でも吐きそうな顔で言うからヴェポラップでも塗る? と聞いてみればそれで楽になるなら、と返ってきた。楽になるかは分からないけれど、何もしないよりマシだろう。いつも触れている肌に何の思惑もなく薬を塗り込んでいるのは、なんだか妙に背徳的でこそばゆい気分になった。子供みたいだね、なんて流石に言えないから黙っていたら子供みたいだな、と先に言われてしまった。彼にこんな誰かの愛を受けるような子供時代があったのか、それは聞けなかった、聞かなかった。 星が綺麗な夜で、あまりにも綺麗だから窓を開けっ放しにしていたら彼の風邪は悪化したしついでにオレも風邪を引いた。 * 眠れずにいる星の夜はヴェポラップ塗られた胸をはだけたまんま / 飯田有子 *** 新月にストッパー ぐだデル *現パロ 「先生、お腹すかない?」 「寝てる」 「オレはすいた」 「回らない寿司に行きたい」 「安い肉でもいい」 「バナナが急に食べたくなった」 「今のシモネタかな」 「ねえ」 「ねえ」 「ねえ」 「起きてよ」 「食べちゃうよ」 * 深夜、空腹で目が覚める。何か食べたい。あの人といっしょに何か食べたい。生牡蠣とか。タルタルステーキとか。レバーとか。トマトとか。ザクロとか。あの人の舌も指も眼球も。何もかも食べてしまいたい。 紫水皐月 *** 首筋に唇を押しあてた ぐだデル *三次創作 実のところ何をして良いのかだめなのか、それはつまるところのアンデルセンの許可不許可の話ではなく、倫理観でもなく、こういった関係性や行為におけるルールのような暗黙の了解のような、つまり童貞でも出来るセックス、みたいな話だった。アンデルセンが人ではないからと言って何をしても良い訳―――いや良いんじゃないか? とも思ったけれどもやっぱり最初の―――実際のところ最初でも何でもなかったのだけれど、だから童貞でもないのだけれども、何でも良いから今はとてもセンチメンタルになっているので初めてと大差ない心境であったし、セックスはしたいけれども珍しく優しくしてみたかった。優しく、というか、アンデルセンにオレという人間がそこまでえげつないものではないのだと思ってみて欲しかった。一瞬で良くて。それはオレがオレのことを永続的に真面だと思うことが出来ないからだし、それに関してあまり良い方向に動かそうとする意志がオレにはないからだった。オレは今後もきっとアンデルセンとセックスをするし、それはまあある意味では両思いであるのかもしれないけれども何処かで終わりの見えているものだし、もしもとても偉い人だとかが何でも願いを叶えてくれると言ったところでアンデルセンがオレの隣にいることはない訳だし、と出れば出るだけネガティブな話だった。 「ってことだからさあ、アンデルセンの夢見るこれぞセックスみたいな話を聞きたい訳だけど」 「何がってことだから≠セ。何も伝わらない。お前の癖は知っているが俺にも限度はある」 「カクカクシカジカ」 「お前はそれを言って本当に伝わると思っているのか」 「それは…こう…愛で?」 「何の?」 「アンデルセンの、オレへの」 アンデルセンは少し眉を寄せて、それは見慣れた表情すぎて最早何も思わなかった―――いや眉間に擦り付けたら、なんて考えたには考えたけれどもそれはほぼ無意識の話なのでやっぱり何も思わなかったで良いのだ―――が、それでも無茶があったかなあとは反省した。反省したところで活かすことがないのだけれど。だって内面の話を延々連々語るなんて恥ずかしいにもほどがある。酒でも飲まないとやってらないだろうしオレは未成年だったから。まあ此処に未成年飲酒を咎めるものがいるかはさておき。 「まあなんですか、オレだってやっぱりアンデルセンには気持ちよくなって欲しい訳だしさ。それについてはオレがアンデルセンの反応見てれば分かるんだろうけど、アンデルセンからこういうことしたいとか言われるのも中々に乙なモンかなとかそういうふうに思って…」 「下らない」 「下らないくないよ」 何度でも始められると先日分かったばかりで、つまりオレたちはスタートラインにも立っていなかったんじゃないか、なんて思ってしまった訳で。アンデルセンとしてもオレのオレが使い物にならなくなったらきっと困るだろうから。 と、並べてみても結局のところなんとなく≠ナしか片付けられないのだ。いつもと同じ。アンデルセンとセックスがしたい、それも今日はとびきり優しく、アンデルセンの注文で。 「アンデルセン、セックスしたいって言ってみてよ」 「寝たい」 「オレじゃなきゃ嫌だって言ってみてよ」 「………」 演技ながらに思ったよりも沈んだ声が出たものだからアンデルセンは黙ってしまって、その、なんだ、と頬をかき始めたので、今日もいつもの通りにだめなセックスでもしようか、ていうか何をもってしてだめだなんて言うんだろうな、なんて考えていたら、馬鹿だな、と言われた。 「お前が俺をこうしたんだ」 今更何を、とアンデルセンは笑う。 「お前にしか愛されないさ」 愛しているなんて一言も言ってないけれども、これ以上問答している余裕はなかった。 * 空耳 http://finalsong.web.fc2.com/ *** 再現 巌ぐだ *現パロ ふと、ソファなんかで眠っていて目を覚ますと自分の体勢が不思議なことになっていることがある。目線がどう考えても普通にソファに横たわっているものではなくて、まるで、まるで、ああ、誰かの腕に抱(いだ)かれているような。 じりじりと火がつくように稼働し始める頭が首を動かすなと命令するけれどもそんな命令を律儀に守ったとして視界に入っている見慣れた腕や指や袖などからは目が離せない訳で。結局奇声を上げながらソファ、もとい恋人の腕の中から転がり落ちた訳だけれども、どうして彼が突然気まぐれのようにそんなことをするのか、聞けないままでいる。 * (だって聞くなんてそんな畏れ多いこと、心臓が爆発しそうな訳で) * 「ずっとこうしてたの?」「よく眠っていたから」「ありがと」「いつもはあなたがこうしてくれる」「俺があんたを守っているつもりだったけど」「うん」「俺が守られていたのかも」「同じことだわ」 紫水皐月 *** 少年の教育 ぐだデル 「怒ってる?」 唐突に投げられた言葉にアンデルセンはぱしぱし、とわざとらしく目を瞬(しばたた)かせた。 「何に対してだ」 正直心当たりが多すぎて何とも言えない。この男はマスターであることを盾に―――いやそんな知性はないようだが、まあ客観的に見て盾に―――取るようにしてアンデルセンと関係を結んでいる。それは別段強要されてのことではないしアンデルセンも何かしら絆されて許容している部分もあるのだが、それにしてもこの男は本当にだめな奴であり、アンデルセンが言うのも何だが魂の形からして童貞であるのにこんなにもアンデルセンを好き勝手して、一体何処からそんな発想が湧いてくるのかと思うほどなのだった。話が少々ズレたような気もするが、つまるところそんな男を相手にしていたら怒るべき部分なんて山のようにあるはずだったし、それを考えれば先程のものは当然の反応だっただろう。 「昨日のこと」 しゅんとたれた耳が見えるようだった、いつもは発情期の犬そのものなのに、こういう時まで犬のような行動をしなくても良いものを。そんなことを思っていたらああ確かに昨日の行動は怒っても良かったな、と思い出した。最近アンデルセンもまた、麻痺しているらしい。 麻痺しているので、アンデルセンは別に、と答えた。あんなに嫌がってたのに、と男は言う。否、男と言うにはまだ少々足りないのだ、と思う。アンデルセンがいつも彼の男の部分を感じているからと言って、彼が既に成熟した大人であるという訳ではないのだ。少年、そう、まだ少年なのだ、彼は。だからだろう、アンデルセンはこんな見た目をしていても死ぬまで生きた記憶が霊基には刻まれており、そしてそれから逃れることは出来ない。どんな見た目をしていようとアンデルセンは大人だった、彼を見守る大人にしかなれなかった―――はずなのに、と思う。 「忘れた」 つっけんどんにそう返すと、嘘、と少年は言う。だってあんなに、と繰り返す少しばかり泣きそうな顔に、アンデルセンに嫌われるのはほら、なんか違うと思うし、と言い訳のようにまくし立てる少年に、馬鹿だなあ、と思う。 「ねえ、ならさ、」 視線の定まらない少年はえっと、と言う。 「もう一回、して良い?」 その言葉に素直に頷いてやるのも嫌だったため、手持ちのタブレットで鼻面を叩いてやった。 * 「あんた、怒ってないの」「何」「昨日のこと」「別に」「あんなに嫌がってたのに」「忘れた」「もう一回していい?」 紫水皐月 *** 私はお前のものにはなれない 巌ぐだ R18 毎日葬式でもしているみたいだ、と思う。こんな顔が百点満点に美しくて中身も文句の付けようがなくて私を抱いてくれる男の腕の中で思うことじゃあなかったかもしれないけれども、やっぱり毎日葬式をしているみたいだった。此処は高い高い山の頂で寒くていつも吹雪いていて、よく幼い頃に見たことのある山から立ち上る煙なんて、見えなかったけれど。 「田舎、だったから」 その話をしてから言い訳のように言った。土下座までして手に入れた性交渉の権利を履行する中で、どう考えても貴重なその一回の中で、私はどうしてそんな下らないことを口にしたのだろう。彼もまた下らないと思っているようで、その美しい目が私を射抜いていた。ああ、背筋からそのまま背骨を抜かれてしまったような心地になる。雷が落ちるなんて表現じゃ物足りない、私はどんどんだめになって、否、最初からだめだったかもしれないけれども私はこの夢のような一瞬に交わってしまった彼のために、すべてを捧げてしまったって良かったのだ。そう、良かったのだ、良かったのだ、良かったのに。 私の膣は、どうやったって彼の形を覚えない。だから毎日が葬式なのだ、と思って泣きそうになったら彼はやはり目一杯に美しさを湛えた指先で私の頬を撫でて、そのまま涙を舐め取った。 それでもまだ、私は彼の形になれないまま。 * 道を往く孤独の数だけ傘がありそのほとんどが黒か透明 / ロボもうふ *** もみじ ぐだデル アンデルセンの手っておいしいのかな、と零してみたら今度はそういうことに目覚めたのか、といつもの顔をされた。 「違うよ」 言い訳のようにオレは言う。 「オレの国の…ご当地お土産物にさ、お菓子があって。それの由来が赤子の手を食べたら美味しそう、みたいなやつでさあ」 「残念ながら見ての通り俺は赤子じゃない」 「うん、分かってる」 でも、と続ける。 「おいしいって思うのかな、って思って」 「今は思ってないんだろう」 「うん」 「なら思ってないんじゃないのか」 「そうかな」 未来のことは分かんないから、と言えばてきとうに綺麗な言葉で片付けようとするなと蹴りをいれられた。痛かった。 *** 20171010 |