完璧な貴方 ぐだデル

 「こんな駄作を世に出す訳にはいかないだろう!!」
べりべりー! っと破かれたその物語だったものの雨を浴びながら僕はああーと声を出す。
「君の物語ならどんなのでもいいのに」
それは本音で、別に彼の物語を軽視している訳ではなかったのだけれども。
 「馬鹿か君は!」
怒られた。
「君にこんなもの読ませられる訳がないだろう!」
びっくりして目が丸くなる。
 たった今結構なデレをかましてくれた彼はいつそのことに気付くのかなあ、と僕はただ降り注ぐインクと紙の香りの中で笑っていた。



えのさんの絵につけさせて頂いた文



20151127

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夢の果て 巌ぐだ

 どちらが現実なのか分からない、なんて弱音を吐くようなものではない。そもそも彼の人と縁を結べた瞬間にすべてを理解したと言っても過言ではないほどの高揚感が奔ったのだから、それが夢であって貯まるかとも思う。
 思うけれども。
「夢を見るんだ」
呟く。
 マイルームでは高級そうな煙が渦巻いている。

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味覚 巌ぐだ

 口が慣れそうだ、と言えば胡乱な視線を寄越される。本人にそのつもりはないのだろうが。
「煙が苦く感じられる」
「甘い香りのも、なくはない」
「そういう意味ではない」
安っぽい包装を丁寧に解いて山に加える。珈琲もそうだった、角砂糖が欲しい気がした。
 今までは必要だと思ったこともないものだった。

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きょうよう ぐだデル

 アンデルセン童話ってあんまり知らないんだよね、と言えば返って来るのはそうか一言だけで喜びも悲しみもそこからは感じられない。
「アンデルセンはそれでいいの?」
「いいも何もマスターの教養の欠如に今更何を言うこともあるまい」
忘れてもらった方が、と付け加える姿は他でもない失言の肯定だった。

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氷の男 ぐだジク

 「ジークフリートのそれって感覚あんの」
年若いマスターがそんなことを聞いてきたので頷くと、きらりとその瞳が輝き出した。
「えっマジで何じゃあ触っていい? 触るよ? 触るねはい触ってる分かる?」
 ひんやりとしたその部分に生きた人間の温度はひどく熱くて、今すぐにでも溶けてしまいそうだった。

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ぼくの偶像 ぐだダビ

 肌を滑る指が辿るのは筋肉で出来た凹凸だ。
「意外と筋肉質だよね」
「そりゃあね。走り回る仕事だし」
「楽しい?」
「楽しかったよ」
愛されるべきなのだ、と思う。自分だけではなく、他のすべてに。そうして今彼は此処にいるのかもしれなかったが、そこまで学がある訳ではない。
「経験ある?」
「ご想像におまかせするよ」
 君の好きなように。
 そう笑うのはきっと王の顔だった。誰かの求める偶像である、王の顔だった。



#リプ来たキャラに無体を働く

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とある旅行鞄に愛された旅行者の話 デル

 「俺の話か? 面白くもなんともないぞ。お前たちのように故郷が劇的に消えた訳でもない。…まあ、確かにもうないんだがな。けれども俺はそもそもよく旅行に出ていたし、あまり家には帰っていなかったし、尊敬する父はもう亡くなっていたし、正直なところあの家に寄り付く意味もなかったんだ。あ? …ああ、いや、別に家族仲が悪かった訳でもないんだが、そうだな、俺にとって尊敬出来る家族は父だけだったのかもしれん…家族という意味では、父のことしか認めていなかったと言っても過言ではないだろうな。冷たい人間だと思うか? まあ、それは自由だ。そもそも俺の故郷は山間部にある村でな、冬には雪が大量に積もったし、俺はそれが嫌で冬の間は村には帰らないことが多かったが。春になって、近くまで戻って噂を聞いてそりゃあ愕然としたが、ああとうとうこの日が来たとも思っていたな。近隣の村には同じような結末を迎えたところも少なくはなかったのだから。…だから、まあ、今となっては何処にあったのか分からないくらいに流されてしまったし、父の墓参りに行けないことだけが残念だが、それでもまあ、来るべき時が来ただけの話だし、俺がその時ちょうど村にいなかったのはただの幸運で、どの選択を間違えたとか、そういうことはないんだろう。少なくとも俺はそう思っている。…ん? 何だ? ああ、この鞄か。この鞄は俺のお気に入りでな、旅行に出る時はいつだって持ち歩いているんだ。そんなに上等なものではないが、大切に使っているからだろう、どんどん味が出て来る。愛着も湧いているし、もう手放せやしないな。本当にだめになるまで使い倒すだけのことだ。もしかしたら俺の方がくたばるのが早いかもしれん。…なんてな、はは、冗談だ。だからそんな恐ろしい顔なんかするなよ、俺が天才童話作家だからと言って、まさか。そんなことがあるはずないだろう?」

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顔も知らない父の話 シェ

 「吾輩の話ですか? 面白くもなんともありませんよ、まあ劇作家にとっては、の話ですが。事件性で言えば、まあ一応面白い話かもしれませんね。未だに犯人は捕まっていないようですし恐らく今後もこの事件の犯人としては捕まらないのではないでしょうかねえ。あの頃吾輩の村の周りではそうですね…所謂山賊が出ると噂になっていたのですよ。恐らくそれの仕業でしょうし、あの辺りの山賊というのは流れの者たちが一時のみ組んでやる、冬越えの儀式みたいなものでしてね。ええ、そうです、厳しい山奥の村でしたから、閉鎖意識が強くて。もう少し平地であれば分かり合うことも出来たのでしょうが…外から来たものは皆敵と言った有様でして。しかし女子供はそれでも受け入れるらしく。何を隠そう、吾輩はあの村の出身ではないのですよ。ですからこんな悲劇をこんな笑顔で語ることが出来るのやもしれません。吾輩は母に連れられてあの村にたどり着いたのです。どうして母と二人、手に手を取り合って逃げる羽目になったのか…残念なことにその記憶はないのですが。母は死にかけながら吾輩の手を引き、あの村にたどり着いたのです。村人たちは親切でしたとも。殆ど何もしゃべれない吾輩にもよくしてくれましたし、死にかけていた母には言うまでもない。とは言えそれまでに蓄積した無理が母の身体には重くのしかかっていたらしく、それからは立ち上がることなく暮らしました。最期はあっけないものでした。風邪を拗らせて、というもので。その頃には吾輩も覚悟は出来ておりましたから、母のために泣いただけで生きる理由を失くしたりはしませんでした。それから…しばらくのことでしたよ。山賊の噂…と言いますか、山の麓で見知らぬ一団を見たと聞いたのは。各自警戒を怠らぬようにと言い含められ、まだ若かった吾輩は家から出るなと特にきつく言われましたな。しかし、まあ、貴方もご存知の通り、それを大人しく守っているような吾輩ではありませんでしょう。その夜はとても月がきれいで、よい詩が書けそうな気がして森へと抜け出したのです。森の中には月見によいスポットがありまして。秘密基地ですよ。え? ええ、その頃から詩や劇などは書いていましたね。山奥ですが、山賊の…ほら、戦利品で外のことは知っていましたから。ええ、そういうものですよ。弱肉強食。世界はそう出来ております。秘密基地で詩を書いていると、ふと空がやけに明るいことに気が付きました。それが、村の方であると気付くまでには少々時間がかかりましたが。急いで戻りましたが、あれは、そうですね、もう手遅れでした。生きている人間の気配はしませんでしたよ。辺り一面火の海で、母の葬式と同じ匂いがしました。今思えばあれは人の焼ける匂いだったのかもしれません。吾輩はしばらく呆然として、それから急いで山を駆け下りました。あの場所にいては死ぬと思いましたからな。誰も助けませんでした。…いいえ、誰も助けることが出来る人間などあそこには既にいなかったのだと、吾輩は思っております。もし、という仮定は勿論捨てることは出来ませんが、吾輩はあの選択を最善だったと思っているのですよ。…それに、力なき子供です。吾輩はあの村に救われた身なれど、心中するほど愛してはいなかった、それだけのことですよ。その後吾輩は麓で行商人に拾われ、トントン拍子に話が決まり都会に出てこうして劇作家をやっております。ええ、不思議なものですね。誰ぞの加護でもあったのかと、吾輩でも思うくらいです。…さて、お話はこれくらいで? いえ、予定がある訳ではないのですが、吾輩はどうしても今すぐ書かねばならんのです、ああ、インスピレーションが…詩が…燃える、燃える、家も、人も、森も! 焔は何もかも飲み込む母なのです、ああ! …はい? ああ、ええ、そうかもしれませんね。何故だか分からんのですが、過去の話をした後はいつもかみに向かっていたくなるのです」

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頭の悪い女でいたいよ 巌ぐだ

 分かっている分かっている分かっている分かっているだってそもそも英霊とは元々の存在があってこそのものでありだからこのようにして出会えたのだけれどもそれは此処へ来る前≠ェしっかりと存在しているからであり勿論それは彼に関して言えばあまりに曖昧で魔術師としては卵も良いところな人間ではその曖昧さに踏み込めやしないのだ。だから分かっている、と言い聞かせる。性行為は施しだった、ぐちゃぐちゃになるほどに愛なんてものに心を傾けた可哀想な一人の女を彼は救ってくれただけ、それだけの話で人間はいつか死ぬし半永久的な機構に組み込まれた彼はもしかしたら手放した後に他のマスターを持つかもしれない、そもそも心には踏み込めないのだからこんな一人間のことなんか覚えていることはないだろう、このカルデアにはどうやら他のマスターのことを覚えている面々が幾らかいるようで彼もそうなってくれたらと思うことはあるけれどまずこんな私を思い出して笑うことなんてない―――と思ったけれどもこんな馬鹿な女がいて、という記憶には残るかもしれない。でもそれを第三者に言うだろうか、カルデアのバックアップでそんなことは必要ないけれどもまさか誰か彼を呼び出してそれが未熟なマスターだったりしたら、私のように、そして私のように何処のバックアップも受けられない生き延びたい人間であったなら彼は応えるのだろうか、ああ、考えたくない。
 彼は私の男であった。私は彼の女ではないけれど。
「愛さなくて良い、」
私の口からこぼれ落ちるのはいつだって強がりなんかではない。事実の確認、私がこれ以上無様に―――これ以上無様になることなんてないとは思うけれども―――求めることがないように。
 それでも私は死んだら彼に迎えられたい。
 私は彼の女ではないけれど、彼は私の男だから、それくらいして当然と私は言い募るのだ。



喉元にカッター
http://nodokiri.xria.biz/?guid=on

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呪い ジュナぐだ

 アルジュナはとてもいいサーヴァントだと思う。強いし格好いいし優しいし、マスターとしてわたしのことも認めてくれた。それはとても幸せなことだ。好きだと言えば好きだと返してくれるし、愛していると言えば愛していると言ってくれる。何も言うことはない、これ以上望むことはない―――普通なら。
 マイルームでサーヴァントの育成状況を確認するわたしの横に、いつもアルジュナはいる。まるで自分の部屋のようにわたしの部屋にいるアルジュナのことを、誰も可笑しいとは言わなかった。わたしも可笑しいとは思わない、わたしが命じて彼を此処にいさせているのだから。もう決まったこと、いつも通り、当たり前。わたしが人間でマスターでアルジュナがサーヴァントであるくらいに何の違和感もないこと。彼だってもう呼ばれる前からわたしの部屋を訪ねてくるし、それを誇りに思っている節がある。
「でもアルジュナにとってわたしって一番じゃないんだよね」
それはこぼれ落ちた言葉だった。言うつもりがなかった訳ではないから、驚いたようにこちらを見るアルジュナに戸惑うことはない。今言うつもりは確かになかったけれど、いつかは言うつもりだったのだから。ただそれが今になってしまっただけで。
「マスター、」
「いいの」
何か言おうとしたアルジュナを留める。大丈夫、知っている、わたしは人間でアルジュナはサーヴァントで、だけど其処に何が横たわるでもない。いいの、とわたしは繰り返す。あからさまに困ったようなアルジュナの額にわたしの額を押し付ける。
「いいの、これから一番にしてくれれば」
 だってアルジュナはわたしの一番のサーヴァントなんだから、わたしを貴方の一番の女にするなんて簡単なこと、出来ないはずがないでしょう?

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20170713