エスコートもさせてくれない我が侭な私の猫(ああ、私の愛しの遊星!) 何処でも良いが先に予定地を言え、それで俺が服装を考える、と言った恋人は梶井のセンスを信用していないのだと公言して憚らない。別にセンスというものが必要かと言うと、梶井としてはこの紡錘形の美しさを理解出来ていればそれで良いので、彼がそれで満足するのであれば好きにしてもらっている。代わりに、と言って彼は梶井に行き先を任せるのだし、まあ、分担、というやつだろう。別にそういうことが重要だと梶井はまったくもって思わないのだが、どうにも彼は気にするのか、大体手前が飯だって全部作るだろ、と言うので上手く返せはしなかった。彼は彼で梶井が一人で行かないような高級店に連れて行ってくれるし、その場での振る舞い方も教えてくれるし、所謂両得というやつなのだと思うが、まあ、気になることを解消出来るのは良いことだ。この関係を続けていくためにも。あとまるで先程同棲しているような表現を用いてしまったが、基本的に梶井は研究室に寝泊まりすることが多いし、自宅だって仮住まいを幾らか持っているだけでそういうことはない。まあ、そのセーフ・ハウスのどれにも彼の着替えやら歯ブラシやら箸やら何やらが置いてあるので、もしあのどれかでも踏み込まれるようなことがあったら同棲していたと思われるのだろうけれど。 単なる上司と部下、ではなくなったのは一体いつからだったか。研究のことはきっちりと覚えている梶井でもそれは割合ぼんやりとしている。そもそもいつ部下になったのかも知らないのだ。梶井の上にいるのは宇宙大元帥のみであると思っていたので、まさかそういうものが現れるとは思っていなかった、というのもある。とある取引現場で問題が起こった際に、『手前は俺の部下なんだからちったあ言うこと素直に聞け!!』と怒鳴られて以来、梶井は彼の部下なのであった。ちなみにそのあと宇宙大元帥に確認したらいつものあののんびりとした口調で言ってなかったかな、と言われたので、恐らく知っていたのは宇宙大元帥と彼だけだったのだろう。普通ならば怒鳴られ損ではあるが、こういった組織でまず一番上の直属、とそういう存在に直ぐなれる訳がない、というのもそうだろうと納得はするので、特に文句は言わなかった。 「中也殿」 どうせ一緒に出るんだ、と言って勝手に夜のうちからベッドを占領している上司兼恋人を呼ぶ。 「何だ。何処行くか決めたのか」 「あ、それはまだなんですけど」 「じゃあ何か菓子でも冷えたか」 「僕のこと洋菓子屋だと思ってるんですか?」 「冷えたモンが良い。和菓子が良い。羊羹が良い」 「それは普通に買いましょうよ」 ああ、京都でも良いですよね、と言うと飛行機飛ばすか、と言われる。こんな私用も私用に組織の飛行機を使うなんてことをこの割合きっちりした人がやる訳がないので、黙って朝一の新幹線の座席を指定する。 「取れたか」 「取れました」 「宿は」 「日帰りじゃないんですか?」 「泊まる。今首領に許可取った」 「メール一つで許可もらわないでくださいよ…」 言いながらも宿もついでに予約する。まあ、予算の話なんて何もしていないけれど、梶井も彼もそれなりに持っているので大丈夫だろう。 「眼鏡」 「外しますか」 「まだやることあるのか」 「もうないですよ。台所の掃除終わりました」 「じゃああと寝るだけだな。どうせ朝一なんだろ」 「はい」 「ほら」 寄越せ、と言われて顔を近付ける。何人殺したのかよく分からない指が、やわらかな動作で眼鏡を取っていく。いや、殺人の数というものでは自分もまあ、そこそこの数がついてまわるので何も言わないが。別になければ見えないということもないのだけれど、あるのとないのではやはり視界のぼやけ方が違うので私生活ではかけている。そういえばこれも彼の選んだものだったな、と思う。眼鏡屋に連行された時はどうしたものかと思ったが、お前はこっちの方が絶対に似合う、と恋人に言われて悪い気はしないものだ。ついでに贈り物だったことだし。 それが丁寧に外されてベッドサイドに置かれる。ボタン一つで暗くなった部屋で、手前の分だ、と彼はベッドを半分開ける。そもそもこの部屋は一応梶井のものであるはずなのだが、彼がそうしていても特に違和感がないのでそのままにしている。 「お前の死体袋は」 ゆるり、と背中に回された腕が温かいのが分かる。彼は意外にも高体温だ。まるで彼の性格をそのまま身体が表しているように、なんて。梶井でもそんなことを思ってしまうのは、彼が恋人であるからだろうか。 「要らなそうだな」 「でしょうね」 華麗に爆散してとっておきの花火にもなれるようにしておきましょうか、と冗談で返したらお前は本当に馬鹿だな、と笑われた。 * 金字塔がティラミスになる日 犬と猫を連れて化石を掘りにいこうね / ロボもうふ1ごう 20190921 |