さいごの約束:高緑
和成、とその呼ぶ声の優しさを今もまだ覚えている。
「約束してくれ」
息も絶え絶え、身を削って山を守る床で彼はそう呟いた。
「もし、もしもだ。オレが駄目になってしまった時は―――」
ひどい痛みが和成を襲った。
思わず悲鳴を上げる。目から頭にかけて引きちぎられるような痛み。
「鷹の!!」
山の妖たちが寄ってくる。
ぜぇはぁと荒い息をしながら和成は何とか言葉を捻り出した。
「主様が…捕らえられた」
ざわつく妖たち。
「主様が捕らえられたと言うことは、此処ももう安泰ではないということだ。
直に此処を狙っていた祓い人たちがこぞってやってくる」
目を掌で覆いながら和成は続ける。
「はやく、此処を立ち去れ」
この痛みはまだ契約が切れていないという証だ。
真太郎は生きている。
が、此処に加護を届けられない状態だというのも事実。
それならば、和成のやるべきことはただ一つだ。
「主様のことを思うのなら、生き延びろ」
戸惑っていた妖たちが、一人、また一人と姿を消し、和成は其処に一人になった。
前々から危ないと真太郎が言っていたからか、妖たちはゴネることなく旅立ってくれた。
自分の息だけが聞こえる。
「…真ちゃん」
涙にまみれながらその名前を呼ぶ。
「真太郎ォ…!!」
その声に、返す者はいなかった。
重たい身体に鞭打って立ち上がる。
この山の主である真太郎が囚われた今、この土地を狙っていた祓い人たちを阻む術はない。
真太郎と未だ契約を結んでいるままの和成には彼の香りが残っている。
それを真太郎の遺した術の可能性を捨てず、彼らは和成を消しに来るだろう。
それほどまでに、真太郎の力は大きかったのだから。
「―――ッそう簡単に死んでたまるかよ」
この山の全ての妖たちが、平穏に暮らせるように。
そんな真太郎の願いを叶えてやるためにも。
此処で大人しくやられてやる訳にはいかない。
ばさり、と本性である鷹の姿に戻ると、住み慣れた崩れゆく神域を飛び出す。
「―――さよなら、真ちゃん」
和成の囁きは、虚空に融けた。
その後、力尽きた和成がとある山に墜ちて、一人の少年と出会うのはまた別の話。
20140619