「それ、集めてるのか」
「ん?ああ」
昼休み、屋上。
学校に来る前に買ってきたらしいパンから丁寧にシールを剥がす山崎に、古橋は尋ねた。
「花か?」
「んー…半分当たり」
パンのビニールに載っていた可愛らしいその写真を見て、
直ぐに浮かんできたのは山崎の妹の名だった。
「ほしがってるのは花だけど、オレに頼んできたのは風」
山崎の双子の姉弟はとても仲が良い。
素直に欲しいものを欲しいと言わないしっかり者の姉のために、
こっそりお願いする弟の姿は容易に想像できた。
かぷり、とパンにかじりつく山崎を見ながら、古橋の脳裏にはそのシールが焼き付いていた。
小麦が踊る春が来る
「これ」
ん、と差し出されたノートの切れ端に山崎は目を丸くした。
「これ…」
「協力、したかったから」
綺麗に並べた形で張られた大量のシール。
これだけあれば一回分くらいにはなるだろう。
こういったものは何回分か集めなければいけないのだがら、きっと、助けになれる。
「わりぃな、助かる」
「気にするな」
花はオレにとっても妹みたいな存在なんだから。
喉まででかかったその言葉はすんでのところで飲み込んだ。
流石にそれは、駄目だ。
古橋は誤魔化すように笑う。
確かに山崎の妹は古橋にとっても妹のような存在で、
恋人である山崎の妹なのだから、そう言ったって山崎は怒らないだろう。
もしかしたら、そっか、なんて笑って、
花に言ってやってくれ、喜ぶから、なんて言うかもしれない。
けれど、駄目なのだ。
手から離れていくその一枚の紙切れを見つめながら古橋は思う。
古橋康次郎は、どうしようもなく、男なのだ。
もしも古橋が女だったのなら、
そうやって山崎の妹を自分の妹のように思っていると公言できただろう。
女だったならば、この先の未来も簡単に思い浮かべられる。
もしかしたら彼女も喜んでくれるかもしれない。
だがしかし、古橋は男なのだ。
未来も何も、このままいたら山崎のそれを潰しかねない。
自分から望んだ関係だと言うのに、古橋はそれが、とてつもなく恐ろしい。
それでも、と思う。
嬉しそうに古橋からだって言っておくな、とシールを見つめる山崎を、
手放したくないと強く願うのだ。
(ヤ●ザキ春のパンまつり)
20131226