どんなにかっこわるくても。



「お前のそれは、同情だろう」
ぐさり、と刺さる音が聞こえたような気がしたのは、
紛れもなく山崎の中にそう分類出来る感情があったからだ。



古橋に告白され、省略するがいろいろあってしばらく。
それまでよりも、古橋と過ごす時間は格段に増えた。
そうなれば今まで見えなかった部分が見えてくることもある訳で。
「オレ、古橋のこと、好きだと思うんだけど」
僅かに、鉄仮面と言われる古橋の瞼が震えたのが見えた。

山崎はこの一言を、何の意図もなく言った訳ではない。
一世一代の告白のつもりで、何とか形にした言葉だった。
山崎にとって恋愛感情とは異性に向けるものであって、
稀にそれを同性に向ける人がいると知識では知っていても、
周りに、しかもこんなに近くにいるとは思いも寄らなかった。
古橋から告白と言う形でその事実を突きつけられた時は驚いたし、
どう反応して良いかも分からない程で。

けれど、冷静になってふと考えてみると、
何よりも山崎が驚いたのは、古橋という人間が誰かにそういった類の執着を抱くことだった。

他人から見た古橋と言うのは非常に芯の強い人間なんだそうだ。
バスケ部内外にも友人の多い山崎は、そういったイメージも良く聞いていた。
そんな風に思われている古橋が花宮に従順である、
それは見る人にちぐはぐな印象を与えるらしい。
結果、古橋は花宮に傾倒している―――そんなレッテルが出来上がっていた。

芯の強い人間というのは、山崎も的を射ていると思う。
古橋は確かに自分の中に譲れないものを持っているのだと、近くで見ていて山崎は感じていた。
だがしかし、それには前提があっての感想だ。
古橋は周囲の人間に対して必要以上の執着めいた感情は抱かない、という前提が。
これは山崎の推測であるから、本当にそうかは知らない。
けれど、山崎から見た古橋はある意味花宮にもそれ以外にも残酷なほど平等で、
申し訳程度に存在する距離感というものも、
立場を加味しただけのものに過ぎないように感じられた。
いつしか、古橋は人間に興味が持てない質なのかもしれないとまで思っていた。

その古橋が、一人の人間を好きだと言った。
それも恋愛感情で。
少々ぶっ飛んだ方法ではあったが、どれ程好きなのかも見せてくれた。
その一人の人間というのは紛れもない自分自身だったのだが、
それを抜きにしても山崎はひどく驚いていた。

それを理解すると同時に、この珍しいとも感じる感情を、殺させたくないとも思った。



そういった感情を踏まえた上での告白だったのである。
同情が全てではなかった、確かに其処に古橋個人への恋愛感情というものもあった。
しかし、それもどちらかと言えば古橋の抱く感情への興味、という方が勝っている。
総合して、自覚した中の比率というものは、
山崎が認識しているものとしては同情が一番大きかったのだ。

古橋から吐き出されたその言葉に、固まる以外に何が出来よう。

「別に、オレがお前を好きだからって、無理に応えようとしなくて良い。
オレはそこまでお前に求めてない」
静かに、まるで細波一つ立たない水面のように、古橋は紡ぐ。
「こんな感情だから、応えてもらおうなんて思っていない。
お前が気持ち悪がったり、オレを遠ざけたりしなかった、それだけで充分なんだ」
言いたいことは言ったとばかりにじゃあ、と呟いて、古橋は歩き出す。
その背中は山崎が思うよりも早くに見えなくなった。



一人残された山崎は、軽く唇を噛んだ。

同情。

そう切り捨てられてしまってもまだ尚、胸の内に燻るものはある。
名前は上手く付けられない。
でも、それは古橋に捧げるべきものだと、それだけは分かっていた。

走り出す。
ああ、こんな失くしたものを追うような真似。
「…くっそ」

けれど、手放したくないと叫ぶこの鼓動を、ないものとは出来なかった。



診断
20130122