孕ませた夢の首をもぐ 山古(R18) *想像妊娠ネタ 「やまざき、」 封を切ろうとした手を掴まれる。特に強くもない、でも濃い甘さが茹だる腕。 「そのままがいい」 「え」 思わず声が漏れる。 「でも、お前、」 「あした、なにもないし。そのままがいい。そのままの、やまざきがほしい」 ね、だめ? そう耳元で囁かれてお願いを聞いてやらない男がいるだろうか、いやいまい。相手も男であり多少の負担はかかるものの、妊娠なんてこともない。本人が望むのなら、とビニールのその小さな袋から手を離した。 ありがと、うれしい、ありがと。良く知るその感覚に身を任せて脱力する中で、何度も古橋はそう呟いた。 それからしばらくしての話だ。古橋の身体に異変が現れ始めたのは。 「…う」 「古橋、またか」 しゃがみこんだ古橋の背中を山崎がさする。 「やばいか? トイレ行くか?」 「大丈夫、だと、思う」 突如として襲ってくる吐き気。動くのも辛い程のそれは病院へ行っても特に問題はないと言われてしまっていた。原因が全く分からない。青褪めたその頬を見ながら、山崎は困ったように眉を寄せていた。 気付かない、訳がない。 古橋は最近少しだけ丸みを帯びた。吐き気が出るのは食べ物の匂いがしている時が多い。ふとした瞬間うとうとするようになった。便秘がちになったと言っていた。やたらとトマトを食べたがるようになった。 そして。良く、腹をさするようになった。まるで、其処に守るべきものでもあるように。 事実、花宮にも指摘されていた。 山崎が伝えなくてはいけないだろうことも分かっていた。それでも。 「…山崎?」 不安気に古橋が顔を上げる。 「ん、どした」 「何か、悩みでも、あるのか…?」 「いや、ねぇよ。ただ、お前がはやく良くなれば良いな、とは思うけど」 其処に何もないことは分かっていた。 「でも、焦らなくて良いから」 撫ぜてやる。 「オレはずっと、お前の傍にいるから、ゆっくり治してこーな」 夢を殺すことなど、出来るわけなかった。 * 夢の続きは君だけに 原 その違和感に、原が気付かないなんてことはなかった。最近古橋の調子が悪そうで、彼と付き合っているらしい山崎は始終難しそうな顔で。別に男同士で、とかは思わなかったけれど、花宮も瀬戸も揃ってその違和感をないものとして扱おうとするのだから、原はそれが馬鹿馬鹿しく思えて、そうして苛立っているのだった。しかしそれでもそれは原が介入出来るような問題ではないと思っていたし、だからこそ花宮も瀬戸も黙って見ているのだろう。そう思って無理矢理に意識を逸らしていた。 はずだったのに。 部活が終わったあとの部室。自主練をこなしていたスタメンしか、其処にはいなくて。無意識だろう、腹をさする古橋が目に入った。 それは生産性のなさすぎる行為だ。 そう思ったら頭に血が上って、気付いた時にはその腹を殴っていた。 「古橋!」 慌てたように山崎が古橋に駆け寄る。大事そうにその腹を抱える古橋に、同じように古橋を気にしつつその腹も気にする素振りを見せる山崎。それが原には恐ろしく腹立たしく感じた。何も、ないのに。其処は空っぽで空っぽで、何もないところなのに。どうして、そんなにも。 「そんなさぁ、ごっこ遊び、いつまで続けンの!?」 怒りよりも、その顔に浮かんだ表情は悲しみで、それがまた原の癪に障る。 「茶番だって分かってンでしょ!? 花宮も、瀬戸だって、分かってて何で言わないの!?」 言葉が、言葉が、ぼろぼろと零れていく。止まらない。 「マジになっちゃって、馬鹿みてーじゃん!」 そうだ、これは虚構なのに。きっと、宗教とかそういうものよりももっと、形のない嘘。 「なんもねぇのに、お前ら何を大事にしてんだよ。それ、気色悪ィよ」 無駄だと、誰よりも当事者二人が分かっているだろうに。 「…ばっか、じゃ、ねぇ、の…」 互いを守るように寄り添うのから目を逸らして、部室を飛び出す。 ああ、その小さな首を捻ることすら、原には許されていないのだ。 * 20130309 20130716 |