ユーカラ飽和糖液:今諏佐
「諏佐が女の子やったら孕ませるんになぁ」
勉強中、ふいにそう呟いた今吉に諏佐は顔をあげた。
「今吉子供欲しいのか?」
同性で恋人、なんていう関係になってからいろいろ話してきたとは思ったが、
今吉がそう思っていたなんて知らなかった。
諏佐も今吉も男で、いくら行為を重ねようとも新しい生命が芽吹くことはない。
「ちゃうで。子供が欲しい訳やない。
まぁ神様が諏佐との子供授けてくれる言うんなら、有難く頂くけどな?」
首を傾げた諏佐に今吉は首を振る。
うーん、と少し考えてから、口を開いた。
「孕むまで何度も何度も中出しして、ワシの前で検査薬やらして。
それで孕んだら諏佐攫って二人で子供育てるんや」
にやり、と笑って今吉は続ける。
誰も知らない田舎へ逃亡して、家族の手からも逃れて、
親子三人だけで邪魔されずに暮らしたい。
ああ、もう一人増やしても良えやろな、なんて今吉は付け足した。
朝ネクタイを結んでもらってから仕事に向かう。
時々はいってらっしゃいのキスをして。
帰ってきたらおかえり、と言って貰えて、遅くなる時はメールを。
その返信が夕ご飯の内容と気を付けて帰って来て、という内容だったり。
今吉の語る幸せそうな未来設計。
やたらと具体的なそれは、諏佐の目にも簡単に浮かんだ。
ひどく、しあわせそうだ。
でも、それは決して訪れることのない未来。
今吉はそんな手に入らないものを本気で追い求めている訳ではないのだろう。
そうであるならば、まず同性を恋人にするなんてこと、なかった。
一時の気の迷いだと自分に言い聞かせて、その気持ちを嘘にすることだって出来たはずなのだ。
でも、今吉は諏佐を選んだ。
それが答えだ。
「…で?」
先を促す。
「お前は本当はどうしたいんだよ」
数式を解いていた手はとっくに止まっていた。
今吉はぱたり、と参考書を閉じると向かいの諏佐の元にやって来る。
それを見て諏佐も参考書を閉じた。
後ろのベッドに寄りかかるようにして机との間を開けてやれば、
其処に今吉が猫のように滑りこんで来る。
「諏佐を、正しく掴まえていたい」
小さく囁かれた言葉が、毒のように耳を満たした。
したら諏佐、何処にも行かへんやろ?
弱々しく吐いた恋人にため息を吐く。
同性だから子供も出来ないし、結婚も出来ない。
法や何やらで形作って相手を拘束することが出来ない。
それが不満ではないけれど不安なのだ、こいつは。
ゆらゆらと光を灯す瞳と絡み合う。
「まぁ、本気でそう願ってる訳やないわ。
この先もずっと諏佐がワシの隣にいてくれたらなぁ、くらいは思っとるけどな」
子供も結婚もなくて良い。
実際に形に出来なくても、その分見えない所で縛ってあげるから。
「代わりにどろっどろに甘やかすことにするわ」
獲物を前にする捕食者の目のようだ、と思った。
それにしては大分優し過ぎる瞳だったが。
「ワシなしでは生きられんようになれば良えのにな」
首に腕を回され、肩口に頭を埋められる。
諏佐は慣れた手つきでその背を優しく撫ぜた。
こうして甘やかされることがとても好きなのだと、既にとても良く分かっていた。
20121215