こうこうせい。:花山



職員会議の関係で部活が休みになる水曜日。
「ヤマ」
下駄箱から靴を出していたら、声を掛けられた。
山崎は振り返る。この呼び方をするのは、今のところこの学校では一人しかいない。
「花宮」
「帰んのか」
「おう。今日部活休みだろ? 花宮は? 委員会とかあんの」
「今日は何もねえ」

山崎の背中側の下駄箱から靴を出す花宮を見て、山崎も手に持っていた靴を履いた。
自然ととなりに並ぶ形になる。
そういえば、と花宮がマフラーの隙間から声を上げた。
「原と佐野が廊下走ってったのとすれ違ったんだけど。今度はアイツ何したんだよ」
「あー…サノちゃんの授業で爆睡」
「ああ…佐野寝られるの嫌いだよな」
「好きなやつとかいないと思うけど…」
「お前は寝んなよ、ヤマ」
二人も寝ると俺ンとこに苦情来る、と花宮は呟く。
瀬戸は換算に入っていないらしい。

おう、と頷いた山崎の違和感に気付いたのか、何だよ、と花宮は顔を上げた。
「…なんか、それ」
「ンだよ」
「微妙っていうか」
「ヤなのかよ」
「そーじゃねえけどー…。
どっちかってと“崎”の方取られることが多かったから、原みたいに。………それと、」
足が止まる。
数歩先で花宮も同じように足を止め、振り返って山崎を見る。
「お前が人をあだ名で呼ぶイメージって、なかったっていうか…」

器用に、花宮は片眉だけを釣り上げてみせた。
「…お前って、本当に素直だよな」
「あ、悪ィ、気に障ったか?」
「べつに」
別にって顔じゃなかったぞ、と思いつつも、流石にそれを言葉にすることはしない。
前を向いた花宮が歩き始める。
山崎もそれに合わせてまた、歩き始める。
「いや、でも、良かった」
弁解のように、呟いた。
「ザキっての嫌なのかよ」
「ちげーよ、そうじゃなくて」
あまり変わらない高さの後頭部。
「お前もなんか、高校生なんだなって思えたし」

今度は、花宮が足を止めた。
数歩遅れて山崎も止まる。
となりに、ならぶ。
「………お前ってほんと、素直だよな…」
何を言うことも出来ずに、頬を掻いた。
山崎のその様子に花宮は一度ため息を吐いて、それからぼそり、と呟く。
「はらへった」
「コンビニ寄るか?」
「寄る」

歩き出すタイミングは同時だった。
「にくまん食いてえな」
「買えば」
「一個食ったら夕飯入らねえだろ」
「しゃーねーな、半分出してやるから半分寄越せ」
花宮が視線を寄越す。
「さんきゅ、ヤマ」
にっと確かに釣り上がった口角を認めて、
「どういたしましてー」
にかっと笑って、そう返した。



20141225