うつくしい指:花古



お前の背骨はいくらか多いよな。

何故そういう状況になったのか、覚えてはいなかったけれど。
その花宮の言葉だけは奇妙にい古橋の脳裏に焼き付いた。

古びた部室だった。
其処で古橋は着替えていた。部室には部誌を書き連ねる花宮以外には誰もいなくて、
くもり硝子の向こうから夕陽だけが差し込んで。
今すぐ世界が終わりますと言われてもきっと、古橋は信じただろう。
「背骨、か」
「ああ、背骨だ」
古橋の身体に特にこれといって他と違う部分があるとは思えなかったが、
花宮が言うのならそうれはそうであるのだろう、と頷く。
「何の話だったか。美術で見たような気がする」
「グランド・オダリスク。ドミニク・アングルのオダリスクだ」
美術の尾田、プリント配っておいて説明しないんだよな、と花宮は独り言のようにぼやいた。
その間にも花宮の手は淀みなく動いていく。

男子バスケ部の部誌はいつもいつも、
花宮の細かく整った文字によってくろぐろと染められていく。
それがなんとなく、自分たちのようだと思った。
元々が真っ白なキャンバスだったとまではいかないが、
その上に色をのせた花宮の繊細な指によって、つくられていく一枚の絵。
それが霧崎、と言われても頷けた。
「解剖学的には歪みが多い作品だが、お前はどう思った」

配られたプリントに載っていたのは白黒のコピーで、それも小さなものだったが。
「うつくしいと、思ったが」
背中をこちらに向けて振り返ったその物憂げな様子や、流れるように投げ出された身体が。
背骨が多いだとか、その他にも人間的に歪みが見られる作品と書かれていたと思うが、
それでも古橋はそれを美しいと思った。
元々美術館賞など得意ではないから、うまいことなど言えなかったけれど。

そうか、と花宮は頷いた。
そこで丁度、部誌が終わったようだった。
古橋ももう着替え終わっていた。
荷物をまとめて外へ出る。
自分の背骨がいくらか多いというのなら。
鍵をかける花宮の手を見つめながら、古橋はぼんやりと思っていた。

きっと、花宮の指にもいくらか多い骨があるのだろう、と。



20141209