セピア色に染まる記憶



諏佐佳典の一番古い記憶は、大泣きする幼馴染の手を引いて家路を辿っているところだ。
「まこちゃん、そろそろなきやんでよ」
「うえ、だってぇ」
ひっく、ひっくとしゃくりあげて苦しそうなのに、それでも泣くのを止めない。
「ななちゃんのうそかもしれないよ」
「そう、かなぁ」
「ななちゃん、まこちゃんがだいすきだから。
きっと、くやしくなっちゃったんだよ」
御伽噺に出て来るお姫様のように可愛らしい顔立ちをしていて、
でも性格は何処までも優しく、まるで王子様みたいで。
諏佐の大切な幼馴染は、そういう子だった。
だから幼いと言えどもたくさんの人に好かれ、愛される。
それを妬んだことはない。
正確に言えば妬むなど出来なかったのだが。
何故なら、
「…うん、そうだよね」
ずび、とぐしゃぐしゃの顔でそれでも“まこちゃん”は笑った。
「おれはよしくんがだいすきだから、ななちゃんをだいすきにはなれないもんね」
彼の気持ちが全て、自分に向いていることを知っていたのだから。



「…それが、どうしてこうなったんだろうな」
「はぁ?」
都内のマジバ。
久しぶりに出会った姫であり王子のような幼馴染は、そのどちらからも逸脱していた。
悪童、花宮真。
その名前はこうして偶然ばったり出会う前にも諏佐の耳に入ってきていた。
だが、幼い頃というのは苗字などそんなに気にするものでもない訳で。
「いや、お前の小さい頃の可愛さを思い出していた」
「ふはっ、今も充分可愛いだろ」
「悪童が何言ってんだ」
雑誌でも何度か見たことのあるバスケットプレーヤー。
純粋なバスケの上手さだけではなく、それを上回る黒い噂の数々。
それがまさかあの可愛かった幼馴染だなんて、誰が思うだろう。

久しぶりの休日。
買い物をしに出掛けた昼食時、
一人マジバでポテトをかじっていると、向かい側の席にトレーが置かれた。
相席は構わないが一言声を掛けても良いんじゃないか、
そう思いながらポテトをかじり続ける諏佐に一言、よしくん、と。
ばっと顔を上げた先にあったのはにやにやと人の悪い笑みを浮かべる花宮であり、
ある意味絶望的な言葉を放ったのだった。
「覚えてない?―――まこちゃん、だよ」

「…関西に引っ越したんじゃなかったのか」
「引っ越したよ。今はオレだけこっちに戻ってきてる。霧崎も寮あるし」
「何でまた…」
バスケの強さと偏差値、両方を兼ね備えた学校は関西にもあるだろう。
諏佐はため息を吐く。
この嫌な予感が当たらなければ良いが。
「何でって、そんなの一つしかないだろ」
じっとこちらを射抜くような視線から逃れられない。
「約束、覚えてるよな?」
約束。
“まこちゃん”とは数え切れないほどの約束をしていたが、
こういうときに持ち出されるそれには一つしか心当たりがない。
どくん、と心臓が浮き彫りになるような嫌な音が聞こえた。
嫌な予感が的中して、じっとりと汗が滲み出るような感覚がしたが無視する。
「約束?」
冷静を装う。
「何のことだ?」
きょとん、とした顔を作る。

諏佐の予想に反して、花宮は嬉しそうに笑った。
「よしくん、昔から、嘘がへたっぴ」
その笑顔に、確かに“まこちゃん”を発見して、諏佐は項垂れる。

ああ、なんの悪夢だ。



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20130122