「いっしょうのおねがい。」
「よしくん」
公園の滑り台の上、真は佳典を呼んだ。
「なに、まこちゃん」
丁度滑り切って地面に降り立った佳典は真を見上げる。
真は泣きそうな顔で、何か言おうとしているようだった。
佳典は待つ。
言いたくないことなのかな、そう思いながら。
「ごめんね」
やっと紡がれた言葉は、紛れもない謝罪だった。
「…なにが?」
佳典は首を傾げる。
いつものように幼稚園が終わった後二人でこうして公園で遊んでいて、
真に謝られるようなことはなかったはずだ。
「きのうの、こと」
昨日、というと泣いたことだろうか。
佳典は尚も首を傾げる。
でも泣いたのだって別に初めてのことじゃないし、
前に派手に転んだ時は佳典の方が泣き止まなくて真を困らせた記憶がある。
謝るほどのことでもないように佳典は感じていた。
きっとそれは真も同じだろう。
では、何か。
佳典は真を真っ直ぐに見つめる。
「おとこどうしだと、けっこんできないって。
ななちゃんがいったの、うそかもしれないって、よしくんいってくれたから。
でも、こわくて、きいてみたの。
でも、おとうさんもおかあさんも、できないって」
「…そっか」
ぽつり、と、それだけしか言えなかった。
“けっこん”というものは、大好きな人とするものだと教えてもらっていたけれど、
男同士だと出来ないのか。
落胆した佳典だったが、
うるり、と歪んだ真の目に何か言ってやらねばと小さな頭をフル回転させる。
「けっこん、できなくてもいいよ」
そう言った佳典に、真の大きな目が明らかな涙を浮かべて向いた。
慌てて続きの言葉を言う。
「けっこん、しなくても、おれはずっとまこちゃんのそばにいるよ」
ぱちり、ぱちり。
長い睫が音を立てそうな程しっかり、真は瞬いた。
「…ずっと?」
「ずっと」
「…ほんと?」
「ほんと」
すっと小指を差し出す。
「やくそく」
直ぐに真は滑り台を滑り降りて、佳典の胸に飛び込んだ。
「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」
絡んだ小指はやわらかくて、暖かかった。
「おれ、ずっとよしくんまもるよ」
「じゃあ、おれはまこちゃんをまもるね」
幼くて、ひどく危うい約束だった。
それから数年後、父親の仕事の関係で真の家は引っ越すことになった。
小さい頃のようにたくさん泣いた真だったが、
昔みたいにわんわんと火がついたような泣き方ではなく、
ただ涙を流れるままにしている、そんな泣き方だった。
「よしくん、涙、とまんない」
ぎゅう、と服の裾を握り締められる。
「オレ、も」
悲しい、悲しくて仕方ない。
離れたくない、約束だったのに。
でも、仕方ないことだってことも、頭の何処かで分かっている。
佳典も真も、同じ年の頃の子供よりは少し頭が良かった。
その所為か、この別れに対して妙に諦めている部分もある。
「オレのこと、忘れないで」
ふいに、真が言う。
「大きくなったら、よしくんのこと、迎えに来るから。それまで待ってて」
そして最後、一言佳典の耳元で囁いて、
あとは一度も振り返らず車に乗り込む真を、佳典はただ見ていた。
「…ばか」
耳が熱い。
「そんなの、ここで使うなよ」
まこちゃんのお願いなら、何だって、何回だって、聞いてやれる、のに。