貴方をまもる花の盾
「よしくん!」
ブランコに座っていた佳典は幼馴染の呼び声に振り返る。
ふわり、と視界を舞ったのは無数の紫。
「…はな?」
「うん、はな!」
満面の笑みを見せる幼馴染に少し佳典は戸惑った。
幼馴染の真とは小学校が終わったあと公園で、という約束をしていた。
それは幼馴染が此処にいることで既に果たされているのだから良いとして。
特に花を降らせられるようなことに心当たりはない。
けれども幼馴染が意味もなくこんな行動をするというのも考えにくい訳で。
「なんではな?」
不思議そうな顔を隠すことなくそう問えば、
真はよくぞ聞いてくれた!とでも言うように顔を輝かせた。
「あのね、このまえ、けっこんしきいってね、
そのときおよめさんとおむこさんに、ぱーってはな、したの」
「ぱーっ?」
「うん、ぱーっ!」
その時にしたであろう動きを再現する真を、佳典は可愛いなぁ、と思って見つめる。
「わるいことから、まもるためにぱーってするんだって」
「わるいことから、まもる?」
「うん!」
腕にぶら下げていたビニール袋からまた花弁を取り出すと、また高く花を舞わせた。
それをぼんやりと見ながら佳典は真の腕を引く。
「よしくん?」
「まこちゃんも」
ぎゅう、と抱きしめて一緒に花を浴びる。
「まこちゃんも、わるいことからまもりたい」
拙い言葉でそう紡げば、きょとんとしていた顔は喜色に染まった。
「よしくんが、これからも、しあわせでありますように」
「まこちゃんも、そうでありますよう」
互いを抱き締め合って、祈るようにそう囁く。
ふわふわと伝わって来る体温が、とても心地好かった。
「…これは一体何事なのか聞いても良いか」
ぱちり、と目を開けた諏佐は寝起きのぼんやりとした頭で息を吸った。
上品な香りが鼻孔を擽る。
まだ眠りたい、そう思いながら寝返りを打つ。
ふわり、と何かが頬に触れた。
何か、すべすべとした柔らかいもの…何だこれ。
閉じかけていた瞳を再度開ける。
飛び込んできたのは鮮やかな紫。
ばっと起き上がる。
「あ、おはよう、よしくん」
ひらり、と紫を舞い散らせて起き上がる諏佐を、花宮が楽しそうに眺めていた。
紫の花弁で埋め尽くされたベッド。
「…レポート書いてた気がするんだが」
「ソファで寝ると身体痛くなるから、眠いならベッドで仮眠とった方が良くない?
って言ったら自分で布団入ってったよ」
「全く覚えてない…」
起き上がって花宮の隣に腰を下ろす。
机の上に置かれたノートパソコンを確認すると、
レポートはちゃんと保存してあるようだ、安心した。
続きを書こうとファイルを開き、まだ答えを貰っていない質問を繰り返す。
「で、あの花は何なんだよ」
紫の花。
見たことはあるが、名前まではすぐに出て来ないし、
きっと名前が出て来たところで花宮の意図は掴めないだろう。
「小さい時、フラワーシャワーの真似事したの覚えてる?」
「あとでおばさんにしこたま怒られたアレか?」
「そうそれ」
折角咲いた庭の花を毟られて怒らない親は正直いないと思う。
「あれなんだったかな、って思って母親に確認してみたんだよ。
そしたらテッセンだって言ってて、調べてみたら確かにそれだなって思ってさ」
「…何が言いたい」
嫌な予感にぎちり、と音がしそうなぎこちなさで花宮の方を見やる。
諏佐の予想に違わず、花宮の唇は弧を描いていた。
「よしくん、花言葉って知ってる?」
「…知ってはいるが」
「テッセンの花言葉って“縛り付ける”なんだって」
ぶわり、また視界を舞う紫。
ソファの後ろのベッドから、大量の花弁が降り注いで来た。
どうやらシーツごと引っ張ったらしい、くそ、その掃除一人でやれよ。
そう思いながら目の前の男を見つめる。
何を、なんて聞かなくても分かっていた。
「ねぇ、よしくん。
フラワーシャワーって何でするか覚えてる?」
「…わるいことから、まもるため、だろ」
敢えて、幼い頃の記憶をそのままなぞった。
フラワーシャワー。
それが意味するところを、こんな拙い言葉でなくても諏佐は知っている。
キリスト式の挙式、つまるところの教会での結婚式の際に、
参列者が新郎新婦に花弁をまいて祝福するセレモニーのことだ。
花の香りによって辺りを清め、幸せを妬む悪魔から二人を守る意味がある。
成長するにつれて言葉をたくさん知った。
それで説明することを覚えた。
幼馴染と離れることになったあと、そっとなぞれるのは自分の記憶だけで、
一つひとつを、色褪せぬように明確な言葉で彩った。
だが、彼が言いたいのはそんなことではない。
きっと彼も同じことをしていた、だからわざわざそんな確認は要らないのだ。
「そうだよ、わるいものからまもるため」
閉じ込めるように伸ばされた腕にはぁ、と一つため息を吐いて目を閉じた。
それを言わなければいけないのは諏佐の方なのだと、誰よりも自分が良く分かっていた。
(オレが、ずっと、降らせていてあげる)
あなたは3時間以内に7RTされたら、
相手の頭上から花びらを降らせて遊ぶ花諏佐の絵を描きます。
診断メーカーより
20130318