つりばしわたれ:原澤と武内



*リバではない
*お好きな方でお読みください

*若克徳・若源太の喋り方等々いろいろ捏造
*時期とかはてきとーに脳内で補完してください
*場所は市営体育館とかそんな感じのわりとちゃんとしたとこ想定



「はらさわァ、お前、目上の者への敬意ってねぇワケ?」
どう贔屓目に見ても怒りが煮えたぎっているであろうこれは左からの声である。
「敬意を払うべき相手には払ってますよ」
最大限に相手を馬鹿にしているのを隠そうともしないこれは右からの声である。

武内源太は絶賛非常に面倒くさい立ち位置に立たされていた。

左には同じチームの先輩。
右には同期の友人。
彼らの間に挟まれてその頭上で口論というべきなのか、嫌味の応酬というべきなのか。
おおよそ可愛らしい表現も穏やかな表現もききそうのないそれを聞かされている、
無関係の人間の身にもなってほしい。
先ほど、あの、とやっとのことで発した言葉も過熱する言い争いに蒸発してしまった。
もう何を言う気も起きない。
ただ此処から逃げたい。

左の先輩の言い分はこうだ。
後輩である原澤の態度がでかいばかりか、先輩である彼らを敬う様子もなく、
そしてその口から飛び出すのはその顔に似合わない暴言ばかりであり、
これはひとつ、シメてやらねばならない、と。

右の友人の言い分はこうだ。
態度がでかいと思うのも敬われていないと思うのも先輩である彼らの器が小さいためであり、
自分は勿論自分の感性から生じた少々の敬意は持ってはいるのだし、
暴言だと思うのも彼らの心が狭い所為で、可愛い後輩のちょっとしたお茶目で許せ、と。

はぁ、とため息を吐く。
彼らが分かり合うことは到底ないだろう、そう武内は思っていた。
だからこんなどうしようもないことは止めて妥協点を探すか、
もしくは今後一切関わらない宣言でもするかして欲しい。
そんなふうにして思考を目の前の事柄から飛ばしていたのが悪かった。

「其処にでも入って反省してろ!」
何処に?と問う暇もなく隣の友人が襟首を掴まれるのを見る。
そして、数秒遅れて自分の襟首もまた、同じように掴まれる。
え、は、と言葉らしい言葉を発する前に、わらわらといた先輩たちは二人を何処かに押し込んだ。
鍛えているとは言え、同じような体格の男に囲まれてしまえば多勢に無勢だ、適うはずもない。
がらがらと閉められていく扉に思わず飛び付く。
重い扉一枚隔てた向こうではがちゃり、と錆びついた音がした。
「先輩!?」
何でオレまで、とは思うも流石に口にはしない。
どんどんと扉を叩くも向こうからは、
少しは頭を冷やせと怒りに満ち満ちた声が返ってくるだけだった。
その台詞はそっくりそのまま返してやりたいところだがぐっと堪える。
そんなことを言ってしまえば僅かな希望はおろか、
武内のこれからまでも害することになりかねない。

しかしながらやっぱりと言うべきか、
出してくださいってば、という武内の悲痛な叫びも聞き入れられることなく、
外の声は次第に遠くなっていった。
見回すまでもなく此処がコートの脇にあった倉庫なのだと分かっている。
先ほどの錆びついた音は錠が掛けられた音だろう。
午前の練習が終わった直ぐ後だったこともあり、他のメンバーは一時間は戻ってこないだろう。
希望がまったくないという訳ではなかったが、出れるとなればその時になるに違いない。

「…お前の所為だぞ」
「そうだね」
静まり返ってしまった扉の向こうに諦めて、
そう恨みがましく呟けば、そっけない相槌が返って来た。
一応は武内を巻き込んだことを悪く思っているらしい。
「でも最初に突っかかってきたのは向こうだ」
俺は悪くない、と頬を膨らませたらしい友人は恐らくその動作すら様になってしまっていて、
こういうところもあの先輩の気に食わなかったのだろうな、と思わせた。

恵まれた才能、敵わないと心の底が冷える瞬間。
そういうものに追加して、態度やら人格やら。
原澤の持つすべてが妬ましくて、そのままそれは原澤自身への妬みになって。

小さく首を振る。
面倒ではあるがそれはどうしようもないものだ。
それをどう最小限で抑えるか、そう本人が思わなければ。
「お前の口が悪いからだろ」
呆れた様子を隠すこともなくそう告げて、ぼすん、と近くのマットの上に座り込む。
平たく積み上げられたそれはベッドくらいの高さで座るのに丁度良かった。
「君もそう言うのか」
「そりゃオレだって別にあの先輩たちはどうかと思うけどよ」
前置き。
「ああいうのに絡まれないためにも、お前のその口の悪さは直した方が良いって言って…」
「武内」
「ッ、ンだよ」
驚いたのはその呼び声が至近距離から聞こえてきたからだ。
うっすらと扉の下からコートの光が差し込むくらいで、倉庫内は真っ暗である。
原澤が何処にいるかがうっすら分かる程度だ、まさかこんなに近いなんて思っていなかった。

しばらく、沈黙が続く。
目の前にいるんだろう、それは分かるが、どんな顔をしているのか分からない。
もしかして、落ち込んでいるのだろうか。
尊大な友人に不似合いな想像をしながら武内は次の言葉を待つ。

ふいに頬の辺りに手が触れた。
「ん、頬か」
「頬だけど」
「そうか」
その手がゆるゆると輪郭をなぞるように降りて行って、
そのままトン、と武内の身体の横に置かれる。
隣に座るつもりなのだろうか、そう思った武内の予想を華麗に裏切って、
ぐい、と原澤の膝が割り入れられた。
そこでようやく、何か可笑しいと気付く。
「原澤?」
「なんだ?」
「なんだはこっちの台詞だ。お前何してんだ」
「何って」
暗くて表情は見えないが、確かに笑われたような気がした。
「俺は口が悪いんだろう」
首を傾げる。
「ああ、そうだと思うが」
だから何だと言うのだろう。

するり、と原澤の手が腰の辺りを滑っていく。
そして、練習用のハーフパンツに手を掛けた。
「いやいやいや何すんだよ!?」
思わずその手を掴んで止める。
「何って、だから、武内も俺は口が悪いと思っているんだろう」
その通りにしてやろうと思ったまでだ、と続く愉快そうな声に一瞬意識が遠退きかけた。
もしかして、“手癖が悪い”と同じような意味で“口が悪い”と言っているのだろうか。
もしかしなくても、武内が口が悪いと言ったことについて、原澤は怒っているのだろうか。

それならば謝ろうと口を開きかけた瞬間、黙っていろと言わんばかりに何かが押し付けられた。
その直後に原澤の頭が下がっていく気配がする。
むにり、とした感触。
経験がない訳でもない、すぐに分かったはずなのに認めるのが躊躇われて。
「…抵抗しないのは、同意と見做すからな」
はやり何処か楽しそうな声が下腹の辺りを這うのを、呆然と聞いているしか出来なかった。



(恐怖を乗り切ったその先で勘違いをしよう)
20140313