とくとくまわれ風車:青今



それはあまりに唐突で、不躾で、
こちらの事情なんか汲みやしないあざとい暴力のような言葉だった。
独りきり、たったそれだけのことすら耐えられないのか、
ちゃんちゃらおかしい、と嘲笑われているのだと、非常に頭の悪い自分でも分かった。
何故、自分なのか。
前述通り頭の悪い自分はそこまで考えが及ばなかった。
相手は非常に頭の良い人物だった。
この春、日本最高峰の大学に進学を決めてしまった程。
嘲笑うことは心の内だけで、それをしまっておくことだって出来たはずだ。
彼はそういう人間だった。
共に過ごした一年足らずの時間が、自分にそう伝えていた。
何度も重ねるのも情けないと思うが自分はとても頭が悪い。
しかし人を見る目はあると自負していた。
その自分が出した結論が、あの横殴りに三トントラックをぶつけてくるような初対面は、
あまりにも可笑しかった、ということなのである。

桜がほころぶ気配を見せていた。
非常に頭の良い彼は、同じく非常に頭の良い、
まるでニコイチのような同級生と一緒に住む所を探していた。
もう卒業式は済んだだろうに、
制服を着込んで屋上へこっそりやって来る様は、まるで悪餓鬼のようだった。
給水塔の上からそれを覗き見る。
制服姿の二人は暫くあーでもないこーでもないと紙を見比べて囀り合っていた。

それを崩したのはやはり不躾な存在の方だった。
三年になってから此処、来なくなってたんはアイツの所為か。
ぱちり、と自分も目を瞬かせて更に聞き耳を立てる。
所為っていうと違うかな、と温厚な笑みの良く似合う、
曲者揃いのあの部活の中で最後の良心とまで言われていた彼は笑った。
その曲者の中には自分も含まれているのだが、まぁ置いといて。
別に、アイツに追い出された訳じゃない。
彼の表情は何処までも穏やかだった。
ただ、先輩としてやってやれることなんて殆どなかったから、
こういう格好のサボりスポットを譲ってやるくらい、良いと思ったんだ。
初耳だ、と思ったが息を飲むだけにとどめた。
何しろ自分は聞き耳を立てている身なのだ。
言い方を悪くしてみると、絶賛盗み聞きの最中である。
それを腹黒な彼に見つけられるのは、よろしくない。
非常によろしくない。

なんや、それ。
気が抜けたように言葉が返るのを聞いていた。
ちょっとした先輩の意地だよ、先輩は後輩を可愛がるモンだろ、
アイツはそう簡単には可愛がらさせてはくれないからな。
笑う彼に最後のあの時、手を差し伸べられていたことを思い出す。
あれは、可愛がるということの一環だったのだろうか。
真偽は不明だが、どうもそうらしいと思うことにした。
先輩からの何かしらのものは、自分をとてもくすぐったい気分にさせた。
それ、ワシへのあてつけか。
ぽつり、と呟いた声はとても小さかったけれど、彼も、そして自分も聞き逃すことはなかった。
まぁ、そうかもな。
笑う彼はその頭をぽん、と撫でてから立ち上がる。

そして、こちらを見やると、隠れる間もなくばっちりと目があった自分に対して、
非常に、非常に悪どい笑みを浮かべたのである。
こんな表情出来たのか、と正直呆気にとられた。
重ねるが良心とまで呼ばれるような人物である。
そんな人物がサトリな彼顔負け―――いや、それ以上の悪どい笑みを浮かべているのである。
そのギャップに暫く口がぽかん、と開いてしまった。
「やっぱり、いた」
その言葉に性悪な彼が顔を上げる。
目が合う。
瞬間湧き出てくるものに、まるでそう、
悪どい良心は春風のようだと、足りない語彙力でそう思ったのだった。



即興小説トレーニング お題:天才の春
20130318