かぜかぜふくな:青若
青峰大輝は人の心が触れた。
どうやって、と聞かれると説明は出来ない。
ただ、人の胸に手を突っ込むようにすると其処がぽっかりと開いて、
中にあるものに触れるようになるのだ。
心臓とは違う、人それぞれ形の違いはあるけれど、ハート型でつるりとしているもの。
青峰はそれを心と名付けた。
それは決して取り出せなかった。
どれだけ引き出そうとしても掴むことは出来なくて、幼かった青峰はすぐにそれを諦めた。
青峰がそれに触れている時だけは、世界は時を止めていた。
だからそれを誰かに見られたこともない。
でも、それに触れたからと言って何がどうなる訳でもない。
もう少し頭が良かったらどうこう出来たのかもしれないが、
青峰は残念ながら出来の良い方ではなかった。
だからそれに触れるのは早々にやめた。
人の心に触れると自分のことをどう思っているのか分かってしまうのも嫌だった。
知らなくて良いこともある、とそれくらいは分かっていた。
青峰がそれにまた触れようと思ったのは、高校に上がってからだった。
キセキの世代のエースとして名を馳せていた青峰にとっても、
試合には出るが練習には出ない、その条件を通すのは至難の業だった。
このまま何処にも決まらなくても良い、そう思っていた矢先、今吉に出会った。
馬鹿みたいな条件を考える、と言った監督と一緒にやって来た、主将。
違わずに青峰の心を紐解いたこの男のいるところならば、面白そうだと思ったのも事実だ。
だから、進学先を桐皇に決めた。
けれどその先にも、青峰を気に食わないとしてくる者はいる訳で。
「青峰ェ!!練習出ろっつってんだろ!!」
こいつが、その筆頭だ。
「うっせーな若松サン」
「うっさくねぇ!練習出んのは当たり前だろ!」
「出なくて良いって言われてんだから当たり前じゃねぇだろ」
ここまですっきりと嫌悪を隠されないと好感が持てそうだ、持ちはしないが。
そして、ふと思い出したのだ。
自分が触れられるもののことを。
此処まで真っ直ぐなこの人の心は、どんな手触りをしているのだろう。
ただ純粋な好奇心で手を伸ばした。
「…え」
若松の心は、多少いびつではあるが小さめのハート型をしていた。
ふわふわとはしているが今にも壊れそうで、まるでしゃぼん玉のような。
それが何を示すのか、青峰は知っている。
だいきくん、すきー。
脳裏に蘇るのは、同じものを持っていた女の子の言葉。
手を引っ込める。
また世界が動き出す。
「…青峰?」
「っせーな、行かねぇったら行かねぇ」
給水塔から飛び降りる。
手の中にあったあの感触が消えない。
「ッ青峰!」
尚も名前を呼ぶ若松を振り切るように屋上の扉を閉める。
「…意味、分かんね…」
ああ、やっぱり人の心なんて触れるもんじゃなかった。
20130308