痛々しいほどに、切実な香りだった。胸を内側から抉るような、そんな香り。
「…あおみね」
自分は、彼に何かしてやれるだろうか。
そんなことを思った、四月。
卯月に溺れるサカナ:青若
そんな四月の自分を馬鹿だと言いたくなったのは、まだその月も終わらないうちだった。
練習には出ない、試合には出る。
そんな条件は馬鹿馬鹿しい条件を監督も主将も飲んでしまって、
彼はその才能故に野放しの状態になっていた。それだけではない。
先輩は敬わない、ついでに馬鹿にする、
すぐに手が出る、口は悪い、備品は壊す、挙げ出したらキリがない。
四月からは先輩だ、後輩に憧れられる先輩になろう。
そんなことを思っていた自分を殴り殺したいほどの衝動に駆られる。
けれども、その合間にも。
「―――ッ」
「どうしたんですか? 若松サン…」
桜井が心配そうな顔をしていた。なんでもないと返す。
青峰の、その背中から漂う香り。胸を突き刺すような、それでいてはっとさせられるような。
「お前は…」
隣の桜井が首を傾げたのが分かって、もう一度何でもない、と首を振る。
一体、お前は何を抱えているんだ。
バスケの神様に愛された、そんな才能を持っていて、お前は何に縛られているんだ。
それを聞く権利は若松にはないような気がした。
聞きたかったら、もっと、彼に近付かなければ。そう思うのに、ただ只管胸が痛かった。
20150308