対ショック体勢!:桐皇
「諏佐、少し引き離したら運転代わり」
今吉のその言葉に後部座席組がうげっと声を漏らす。
「何やの、その反応」
助手席の今吉が不服そうに後部座席を振り返った。
桐皇死体宅配便―――それが彼らの属する会社の正式名称だ。
普段は桐皇宅配便として正体を偽っている彼ら。
その存在は都市伝説の中にひっそりと紛れるように広まっており、
本当に彼らを必要とする人々が彼らに辿り着くようになっている。
その正式名称の通り、本当に彼らを必要とするのは―――
「ほんま、しつっこいなぁ」
「仕方ないだろ。最大の殺人の証拠をオレたちが持ってるんだから」
「青峰ーそのオッサン心変わりしてないか聞いてくれへん?」
真ん中の列、諏佐の真後ろに座っている青峰が、
面倒臭そうに一番後ろの列に置かれた不自然に大きな袋に手を伸ばす。
諏佐からはその様子がルームミラーを通して見えた。
暫くするとおどろおどろしい声が、何やら言うのが聞こえる。
「聞こえただろ。心変わりしてないってさ」
「そりゃあ残念や」
運転席には諏佐、助手席には今吉、
真ん中の列には運転席側から青峰、桃井、桜井の順で座っている。
生きている人間は以上だ。
では、一番後ろの列で袋に包まれている喋るものは何か?
「心変わりしてたらどうするつもりだったんだよ」
「ぽいっとどっかに棄ててずらかろうかと」
「…それ、無理だって分かってて言ってるだろ」
「まぁな。これ棄てたら死体遺棄になってまうし」
―――死体である。
この桐皇死体宅配便には特殊な能力・特技を持つ人間が集まっていて、
それを駆使して死体の願いを叶えるのが本来のこの会社の意義である。
想像通り金にはならないが。
諏佐の隣に座っている今吉こそがこの事業の発案者であり、
実質的な責任者と言って良いだろう。
彼の腐れ縁である諏佐はほぼ強制的に此処に引きずり込まれたと言っても過言ではない。
まぁ、諏佐にも死体に関わる特技があるから、ではあるのだが。
「桃井、ハッキング出来るか?」
「勿論です」
言われて直ぐにノートパソコンを取り出し、膝の上で何か操作する。
「出来ました」
「じゃあそれで10km引き離したら高速降りて、そこで運転交代や、諏佐」
「分かった。桃井、指示くれ」
「このまま行けば四つ先で降りれますね。
微妙に混んでるおかげであちらはそこまでスピード出せないみたいです」
桃井の特技はハッキングを始めとした情報収集。
彼女の手に掛かれば警察のセキュリティなんて可愛いものだ。
その桃井の隣で桜井の左手のマペットがぱかっ!と口を開ける。
「ラッキーっすね!」
「ワカマツさん、追われている時点でラッキーとは言えないと思いますよ…」
桜井のマペットはワカマツという。
曰く、宇宙人なのだとか。
そんなワカマツが何故この地球上で喋っていられるかと言うと、
桜井が宇宙にいる彼と交信しているかららしい。
桜井とは反対側の桃井の隣に座っている青峰には、先ほどの通りイタコ能力が備わっている。
死体に手を触れると残留思念が聞こえる、というものだ。
この命がけの鬼ごっこの最中に大あくびをかましていられるとは、
青峰はいろいろな意味ですごい奴である。
今吉は死体を見つけるダウジング能力の持ち主で、
諏佐は死体を修復するエンバーマーの端くれである。
良くもまぁ此処まで多彩な面子が揃ったもんだ、と思う。
このメンバーを事実上引きあわせた原澤はそういう者を引き寄せる力でもあるのではないかと、
密かに諏佐は疑っていた。
「シートベルトしたか?」
高速を降りて手頃なコンビニの駐車場に車を止めて、運転を交代。
後部座席組は自分たちのシートベルトの最終確認をしていた。
そして、真ん中の桃井を守るようにぎゅ、と真ん中に身を寄せる。
その様子を眺めながら、諏佐もシートベルトを確認し、
車内についている取っ手をこれでもかと言うくらい強く掴んだ。
この反応にはちゃんと訳がある。
「出発進行や」
「お前ら死ぬなよ」
「さっきからひどない?
ワシ以上に安全運転てそうそうおらんで?」
どの口が言う、と思ったが、口に出す前に車が発車した。
さぁ、地獄のドライブの始まりだ。
20130309