高尾くんの育ての母が前夜に荒ぶって語りはじめた話:高緑
*高尾くんの育ての母が始終語っているだけの話です
*高尾くんの本当のご両親は他界されています
*高尾くんの妹ちゃんもちらほら出ます
*何ともまぁ、高尾馬鹿な親御さんというか
それは本当に突然のことだった。
私は当時成人を迎えたばっかりで、何とか専門学校を卒業して就職をして、
順風満帆とは言えなくともそれなりの暮らしを築いていた。
恋人もいたし。
悲劇っていうのは本当に突然やって来るんだって実感した。
私には年の離れた姉がいたのだけれど、結婚して苗字も変わって子供も二人いた。
旦那と家族四人、良く遊びに来てたし、それなりに仲は良かった。
子供はお兄ちゃんと妹で、年の所為か私をおばさんとは呼ばずに名前で呼んでいた。
で、その妹夫婦が二人でドライブに行っている時に、事故に巻き込まれた。
即死だったらしい。
呆気なさすぎて、初めは涙も出ない程だった。
受け入れて盛大に涙した後、すぐに思い浮かんだのは二人の子供のことだった。
私の方の両親は残念ながら既に他界している。
ならば旦那の方の両親だが、そちらは子供など預かりたくない、という主張らしい。
そちらで預かるというならば血は繋がっているのだし、金は出そう。
だがこちらに押し付けるというのならば、すぐさま施設にでも預けてやる。
何という言い草だろう、こんな天使な兄妹を捕まえて。
そう思った私はとりあえず返事を保留にさせて欲しい、一週間で答えを出すから、
と向こうの両親を言いくるめて、上司に交渉に行った。
こういう時に必要なのは上司の理解だ。
交渉三日目で人の良い上司は折れてくれて、狭い職場の応援はいとも簡単に得られた。
ということで、姉夫婦の子供を引き取ることになった。
それと同時に恋人には別れを切り出した。
流石に知らない子供の親のような真似をしてくれなど頼めないからだ。
切り出すとまず怒られた。
真似じゃなくちゃんとやってやると言われた。
何てことだ、天使兄妹は私の結婚まで後押ししてしまった。
その日のうちに婚姻届を出し、姉夫婦の死から二週間後には新しい家庭が出来ていた。
まぁいろいろあっと言ったらあったのだが、
向こうの両親の援助のお陰でそれなりに広い部屋に住めることになった。
その点はとても感謝している。
この先語っていく上で、兄の方を鷹男、妹の方を鷹子とする。
私は小鷹、旦那さんは大鷹としよう。
もう二人はこっちがにやけるくらい仲が良くて、
実の子じゃないことにかまけて親馬鹿しまくった。
鷹子が家族について、という作文で、
わたしのほんとうのおとうさんとおかあさんは、てんごくにいます。
でも、さびしくありません。
こだかさんとおおたかさんとおにいちゃんがいっしょだからです。
で始まる文章を書いて授業参観で読みあげてくれた時なんか、もう…!
感動して何も言えずにぽろぽろ涙流してたら他のお母さんたちにハンカチ貸されたりした。
鷹男が喧嘩した、って学校の呼び出されてみれば、いろいろ耐えまくってるようなすごい顔で、
こいつがほんとうのかぞくじゃないなんておかしいっていったんだ!
かわいそうっていったんだ!!
おれたちぜんぜんおかしくない!
かわいそうじゃない!!
こだかさんとおおたかさんといもうとちゃんのこと、なにもしらないくせに!!
って叫んだ後、栓が飛んだように泣きだした時は思わず抱き締めたね。
私悪くない。
勿論相手の親御さんには誠心誠意の謝罪を頂きました。
子供って親の言うこと真似するからね。
親がそう言ってるのを聞いたんだろうね。
それで、俺こんなことしってるぜ〜くらいのテンションで言っちゃったんだろうね。
鷹男を傷付けたことは許さないけど。
と思いつつもちゃんと人を殴るのは駄目だと教えたら、鷹男はちゃんと謝ることが出来た。
と、まぁ、天使兄妹については語りたいことがたくさんあるけど、今はその話じゃない。
兄が、鷹男が、明日彼氏を連れて来て紹介する、と夕食の席で宣言したことだ。
まぁ鷹男が今男、つまり同性とお付き合いしてるのは知ってる。
というかこの恋の始まりのときに泣きながら、
どうしよう小鷹さん、オレ、男を好きになっちゃったかもしれない、
とか言って来てたし、そこから知っている。
何を隠そう私は腐女子だったし、
現実にもそういった系統の知り合いはたくさんいたから特に偏見はなかった。
ただちょっと、
鷹男はイケメンで周りにハイスペックと言わしめる程の逆コミュ障で、
シスコンはあれども女の子ともそれなりに付き合ってたのを知ってたから驚きはしたけどね?
あ、もちろん鷹子の方も可愛いし気配りは出来るし、大分モテるらしい。
でもブラコンっていうのが周知の事実だから、
それを乗り越えられる人しか寄って来ないから楽、と言っていた。
強かだ。
だがそこが可愛い。
話が逸れた。
そうなんだ、問題は鷹男に同性の恋人がいることではなく、
彼を連れて来て紹介すると言ったことなのだ。
だってさ、普通に考えてみてほしい。
いろいろあるが、親に恋人を紹介する(自主的)ってどんな時よ?
そう、結婚したいと考えてる時、というのが一般的だ。
まぁ同性だから結婚はおいといてもだよ、この先一緒一生宣言には変わらない訳だ。
私の天使が一人巣立ってしまうと言う訳だ。
これが荒ぶらずにいられようか、いや、いられまい(反語)。
相手の人について何も知らないのかと聞かれるとそうではない。
彼のことは緑ちゃんとしよう。
緑ちゃんはどうやら二次元廃スペックらしい。
190越えの長身、長い睫毛、眼鏡、語尾がなのだよでおは朝狂、極めつけはツンデレときた。
お前は何処の二次元からやってきた、と言いたい。
媒体を通してなら緑ちゃんの顔はしっかり見たことあるし、
かなりの美人だと言うことは知っている。
鷹男と緑ちゃんは同じ部活に所属していたから、
試合を見に行ったこともある私だし、互いに始めて会う訳でもない。
だけどだよ、だけど。
やはり誠心誠意真心こめて育ててきたつもりの天使が、どれだけイケメンであろうと、
何処の馬の骨とも分からない奴に掻っ攫われるのは、正直、気に入らないのであって。
何、これ、もう、ちゃぶ台とか用意してひっくり返すべきかな?
鷹男も鷹子も私たちに遠慮せず甘えてきてたと思うから、
それなりに良い家族だったはずである。
だけどまぁ、流石に恋愛に関しては遠慮するのか、
緑ちゃんがうちに来ているのに遭遇したことはない。
鷹子は遭遇したことがあるようで、時々教えてくれたが。
お泊りイベントもなく、
もしかして超健全なお付き合いをしてるんじゃないのか高校生なのに、
と心配になったこともある。
だからと言って、そういう行為をしているのを知ったらものすごい顔になったと思うが。
鷹男の恋が始まったのは彼が高校一年生の時だった。
中学時代、所属している部活の試合で敵として出会った緑ちゃんに、
心が折れる程叩きのめされた鷹男は、
いつの日か叩きのめし返してやる、と練習に更に熱を入れ始めた。
そしてそれが功を奏して強豪校に入って、
そこで見たのは今度はチームメイトとして立つ緑ちゃんだったと言う。
それなんて運命…といつもの私なら言うだろうが、
鷹男がどれだけ緑ちゃんに敵対心を持っていたのか知っているから、そんなことは言えない。
あの時は久々に神様を家族全員で呪った。
神様ごめん。
復讐すべき相手、緑ちゃんがチームメイトになってしまったらもう復讐は出来ない。
さて、そこで鷹男は考えた。
じゃあ、緑ちゃんに自分を認めさせてやろう、と。
それからまた鷹男は練習を頑張り始めた。
そのまま一年生でレギュラーを取るという快挙を成し遂げ、
緑ちゃんと共にスタメンにまで選ばれた。
何を思ったのか自転車にリアカー括りつけてドヤ顔してた時には、正直心配した。
あとで聞いたら緑ちゃんのおは朝アイテムが大きいことがあるから、
そのためのリアカーだったらしい。
その名付けてチャリアカーは結局高校三年間活躍していた。
そうして一緒に過ごすうちに、緑ちゃんのいろんなところを見て心を奪われたらしい。
なんてこと。
それが大体一年生の夏。
合宿が終わると同時に、
恋心を自覚して帰って来た鷹男は私に泣き付いてきたという訳である。
とりあえず私の天使を泣かせた緑ちゃん、覚悟しろ、と思ったことは忘れていない。
恋心を自覚してパニクってた鷹男だったが、
私がけろっと受け入れたことでどうやら落ち着いたらしい。
それからは持ち前のハイスペックさでとりあえずは様子見をしていたようだ。
そして一年生の冬、緑ちゃんとのものすごい連携技を披露して、
それでも敗けてしまった試合のあと、緑ちゃんから告白を受けたのだと。
その報告をとりあえず電話で貰った時は、
電話口のとても嬉しそうな鷹男にあああうちの子天使!と思うと同時に、
うちの子誑かしやがって緑ちゃん許すまじ、が入り交じってたことを報告しよう。
いやだって、あれだよ…私はこの泥棒猫!!と緑ちゃんに言っても罰は当たらないと思うんだ。
こんな天使を私たちのところから掻っ攫っていくんだから。
すん。
高校を卒業して大学に進んだ鷹男は一人暮らしをし始めた。
うちからすぐ近くで、月一で帰って来ていたけど。
緑ちゃんとそういうこともするようになったんだろうなぁ、と思ってしまう親心は止められない。
何度ドコドコお宅訪問してやろうと思ったことか。
流石に旦那に止められた。
さすが私の旦那、私を止められる唯一の人、愛してる。
鷹男の彼氏紹介宣言にも落ち込みまくった私をさっきまで慰めててくれてた。
これからもよろしく。
それで、だ。
鷹男の恋が始まってからもう結構な年月が過ぎている。
二人の想いが通じ合うまでに半年のブランクがあったとしても、かなりの時間だ。
それが平坦な道だったとは思わない。
実際、今喧嘩しているんだろうな、くらいの空気は読み取れた。
決してツッコまなかったが。
落ち込んでいる時もあった。
敢えて声は掛けなかった。
それでもそれらを乗り越えて、今の二人があるのだ。
二人が良く話し合って、そう決めたのなら私たちは文句は言わない。
いろいろ言ったが、鷹男に幸せになってもらいたいのは確かなのである。
完全に手から離れる訳ではないにしろ、大切な子供を託すのだから、
最後にいろいろと言いたかっただけである。
ばか、あいしてる。
しあわせになれ。
おまえはわたしたちのたいせつなこどもです。
明日ちゃんと面と向かって言おうと思う。
緑ちゃんにも、ちゃんと幸せになりなさい、と言おう。
さて、もう夜も明けてしまったから、仮眠をとることにする。
幸い私は今日は休みだ。
鷹男はそこまで配慮してくれたのかもしれない。
三時ごろには緑ちゃんが来るらしいし、起きたら掃除をしようと思う。
じゃあ、ここまで聞いてくれてありがとう。
20121118