スキキライ:青諏佐



*青峰くんも寮生活という設定



「アンタ、嫌いなモンとかねぇの?」
寮の食堂。
すとん、と隣に座った後輩の突然の問いに、諏佐は首を傾げた。
「特に…これと言って思い付くもんはねぇけど」
今日のメニューはハンバーグだ。
良く付け合せの野菜が嫌いだと言う同級生もいるが、諏佐自身はそういうこともない。
茹でられたブロッコリーを箸で持ち上げる。
この凝縮した森のような野菜が嫌いだと言う話も聞いたことはあるが、
森だからどうしたと言うのだ、というのが諏佐の見解だ。
「何なんだよ、急に」
こうして隣に座られるのは最近では珍しくはないが、
質問を投げかけられることはあまりなかった。
しかし、
もしもこれがコミュニケーションをとるのを目的で投げかけられた問いだったのだとしたら、
先輩としてもうちょっと構ってやるべきだったのだろうか。
そういえば今吉にももうちょっと青峰に構ってやったら良いのでは、と言われていた。
あの今吉にである。
そんなに青峰に対して冷たかっただろうか、
そう思いながらブロッコリーを咀嚼していると、いや、と青峰が声をあげる。
「嫌いなモンとか食べてやるのがこう、良い彼氏の基本だって聞いたから」
その口から飛び出してきた、どう考えても不似合いなその言葉に諏佐は吹き出しかける。
慌てて口の中のブロッコリーだったものを飲み込んだ。
良い彼氏の基本なんて誰から聞いたは分からないが、そんなものを参考にするのも、
まるで良い彼氏になりたいというようなその言動も、
というか彼女がいたのかという驚きも、いろいろがごたまぜになって諏佐を襲う。
爆弾を落とされたような気分だ。
「お、おう…」
何と返して良いのか迷ってしまう。
だがまぁ、まずは事実確認だろう。
「そ、の。青峰は、彼女がいるのか」
「いや、いねぇけど」
いねぇのか!
心の中でだけ盛大に突っ込んでおく。
良く知る妖怪腹黒サトリ眼鏡だったら実際に突っ込んだのかもしれないが、
残念ながら彼は今この場にはいない。
「いねぇけど、気になってるやつはいる、かな。
そーゆーのになったら、振り向いてくれたりするかもしんねーって」
爆弾二個目。
いや、考えてみて欲しい。
新鋭の暴君―――その二つ名は何処ぞの雑誌が付けたものではあるが、
それから取って桐皇の暴君と、影で表で呼ばれるような後輩だ。
ついでに結構な強面である。
年下とは言えそんな人間が、
気になっている人間に振り向いてもらうためにちょっと格好良いことをしようなんて。
可愛らしいにも程がある。

「諏佐さんはそーゆー彼氏、どう思う?」
「どうって」
「なんかあるだろ、好きとか」
「あー…」
それはどっちかと言えば女子にした方が良い質問ではないのだろうか。
そうは思ったものの、
先ほどのコミュニケーション云々が思い出されたので律儀にも答えることにした。
「そうだな、まぁ、良いんじゃないのか」
一瞬悩んだにしては当たり障りのない答えになってしまったが、
それでも青峰は満足したらしい。
嬉しそうにハンバーグに箸を入れ始める。
それを横目で見ながら、何だったんだ、と諏佐もハンバーグに箸を入れた。
今日のも美味しそうだ、流石桐皇寮の食堂である。
ハンバーグが綺麗に半分に割れたところで、ふと、思い付いた。
「青峰」
「ンだよ」
「ハンバーグ半分やろうか」
「えっなんで」
「なんとなく」
ほら、とその半分を皿の端へ移動してやる。
「返せって言っても返せねーからな」
「良いよ」
スポーツをする男子高校生にとって肉は必要不可欠だが、
それ以上に青峰がハンバーグを好きなことは隣で見ていれば分かる。
嬉しそうにその半分を皿に取って食べる青峰を見ながら、諏佐は小さな声で呟く。
「俺は好きなものを美味しそうに食べてくれた方が良いと思うけどなぁ」
嫌いなものを、食べてもらうより。
好きなものを食べて、幸せそうな顔をしている方が。
「なんか言ったか?」
「いや別に」
皿に残っていた半分に箸を入れると、諏佐もハンバーグにありついた。

今日の夕飯も予想に違わず美味しかった。



(咲葉さんに捧げます #私の嫌いなもの食べ物当てたら小説を献上します)
20130728