伝わらない愛の言葉
女性側自治区の隅にひっそりと、行政局から特別に居住を許可され販売処兼工房を構えて、
一級の精神原型師(アーキタイプ・エンジニア)の氷室辰也は暮らしていた。
「辰也、お客さんだよ」
「分かった。俊、今行くよ」
五等級(フィフス)とみなされた、廃棄物寸前の人工妖精(フィギュア)を助手にして。
彼の名は火神之誠凛伊月ヶ俊。
今の保護者は辰也であるが、大我は俊を認知していたので名前はそのままにしてある。
水気質(アクアマリン)と一目で見抜ける、儚い空気を纏った人工妖精。
弟弟子である火神大我が作り上げた、完成前から一等級とうたわれていた失敗作。
黒曜のような瞳に、烏の濡羽色をした髪、陶磁器のような肌に桜色をした唇、頬。
そして、その気質を映したような淡い青をした、羽。
どれをとっても申し分なかったはずの彼は、完成後五等級に落とされた。
製作者の火神は第五原則を守り口を割らなかったが、
第四原則に厄介なものを仕込んだことは明白だった。
その後、どうやったのか辰也の居場所を突き止め、
粗大ゴミでも放るように俊を置いていかれた。
去り際に、厄介な第四原則を囁いて。
第五原則を破った大我に対して言いたいことはあったが、この時だけは言葉を飲み込んだ。
一級原型師として人工妖精を生み出す辰也は、自分の生み出した人工妖精一人一人を愛している。
だからこそ、大我が何故そんな厄介なものを仕込んだのか、分かってしまった。
「お疲れ様です」
ことり、とお茶が出された。
「ありがとう。俊もお疲れさま」
いつもの通りに隣に座った俊を、辰也は抱き寄せる。
「好きだよ、俊」
その言葉が届かないのを知っている。
「オレも好きです」
あどけない笑みを浮かべたまま、俊は辰也に抱擁を返す。
火神之誠凛伊月ヶ俊の第四原則、それは―――純真無垢。
人を好くことは出来ても愛することは出来ない。
欲の絡む一切の情を絶ち、純然たる心を保つこと。
あまりに美しいこの人工妖精は、完成前から慰みものとしての価値しか見出されなかった。
だからこそ、産みの親である火神は厄介な第四原則を取り付け、彼の未来を閉ざした。
それでも、その狭い世界の中で何とか生きていて欲しいと、辰也は願う。
この愛が例え伝わらなくとも。
20121122