それすら私は愛と呼ぶ:モブ花
*モブ一人称
私が彼を初めて見つけたのは電車の中でだった。
くたびれたサラリーマンの中に一人、窮屈そうに立っていた彼。
その制服から彼が霧崎第一高校の生徒であることが伺えた。
しっとりとした綺麗な黒髪はシャワーを一浴びしてきたようで、
それが下世話な妄想に火をつけるのに一役かっていた。
伏せられた瞳はいつも難しげな本の上を漂っていて、
彼がそれなりに知的な人間であるのを周囲に知らせていた。
最初は見ているだけで良かった。
美しいと言うにはやはり男臭いところもあったが、
成長途中の手足や、清潔に保たれている身だしなみ、
そういうものたちを総合してみたら、美しいという言葉が一番に合致すると思った。
それをただ熱い視線でもって眺めていると、胸の底から満たされる心地がした。
けれど、そのうちにそれだけでは駄目になって、その黒髪を撫ぜる妄想をした。
一束持ち上げて接吻けを落とす。
彼はそれを気にしないふりをしながら、
でも一瞬だけこちらを見上げて、その後の本を読む口元は確かに緩んでいる。
私の方が彼よりも背が高いからこその妄想である。
項に鼻を擦り付けるのも良いと思った。
髪に埋もれ陽に当たらない項を掻き分け、その香りをゆっくりと楽しむ。
それに擽ったそうに笑いながら、彼は声を上げる。
妄想の中の彼は一般的な高校生よりも高めの声をしていた。
やめてくださいよぉ、と良いながら身を捩じらせて、
こちらを向いた彼は甘い響きをもってして私の名前を呼ぶ。
そこまで考えてしまうと、可愛らしい妄想では我慢出来なくなる。
薄い唇に噛り付いて、口腔内へと舌を差し入れる。
ストイックな外見とは裏腹に、始まってしまえば彼は積極的で、
仕掛けたはずのこちらが蹂躙されかねないほどであった。
唾液が零れるのも構わずに求めてくる彼をゆっくりと押し倒し、
主導権を確実にこちらのものにしていく。
ちらちらと赤い舌を躍らせながら、はやくはやく、と急かすのを、
そんなに急ぐなと丁寧に触れてやる。
ワイシャツのボタンを一つずつ外して、制服の下を暴いてしまう。
程よくついた筋肉がしなやかで、指先でふわふわと触れる度に白い喉が震えるのが見える。
耐えかねたように掴まれた手を下肢に導かれ、
清廉潔白そうな唇がが卑猥な語に染まるのは、空虚な胸の内を彩り豊かにしていく。
まるで女のように、いやそれ以上に浅ましく快楽に堕ちていく様を見届けてから、
それを追って同じように堕ちてやる。
すると蕩けたような笑みでようこそ、と囁くその声が堪らない。
彼の降りる駅までついていったことも一度や二度ではない。
家だって把握している。
彼を眺めながら妄想を続け、駅のトイレで処理するのだって慣れてしまった。
夢にまで見たこともある。
そうしていると今度は妄想だけでは足りなくなってくるのだ。
彼に触れたい、彼を妄想の通りに好き勝手にしたい。
その欲望は到底抑えられるものではなく、私の足を踏み出させるのには充分だった。
近付いてみたら、彼からはほのかに汗の香りがした。
運動部なのだろう、それならば霧崎の生徒であるのに、
こんな遅い時間に電車に乗っていることにも納得が行く。
真後ろに立つ自分に彼は警戒心を欠片も抱いていないようだった。
その目線は難し気な本に落とされたまま動かない。
そうっと、周りの目につかないように伸ばした手を、引き締まった脚に沿わせる。
流石に違和感を感じたのか身動ぎしたのを 逃さない、というように、
手の甲で擦っていたのを平に変え、大胆に臀部を這っていく。
男子高校生にしては長めの睫が、ふるりと震えたのが見えた。
左肩には重そうな鞄が二つ下がっていて、左手はつり革を掴んでいる。
右手には本を持っていて、彼が私の手を掴みあげることは今すぐは出来ない。
混んでいる車内では、この手の持ち主が私であることもきっと分からないだろう。
犯人を探すように落ち着きなくその瞳が車内を泳ぐ。
じっくりと、私の妄想が現実になるように、堕としていけば良い。
乾いた唇を湿らせるように一舐めしてから、
その夢にまで見た感触に今死んでも良いとまで思ったのだった。
(えのさんの呟きにカッとなって)
20130606