新入部員をふるいにかけたい帝光中学校男子バスケットボール部の話
「今年は新入部員数を絞ろうと思う。
何か良い案はないか?」
最上級生となったその日の部活前、唐突に赤司は切り出した。
帝光中学校は私立である。
部活動に力を入れていて、各部活が強豪校として名を馳せている。
公立よりは部活動に使える資金はあるだろうが、それにも限界はある。
部員数が百を超える男子バスケ部も、資金繰りに悩む部活の一つだった。
軍が上がればあがる程お金を掛けてやりたいが、
だからと言って下の者を蔑ろにする訳にはいかない。
選手層の強化も強豪として手は抜けないのだ。
弱肉強食と言えるような厳しい練習。
それに耐えかねて退部する者が増える夏過ぎはそれなりに落ち着くのだから、
それならば最初から新入部員をふるいにかければ良い。
では、どうやって?
監督、コーチ、顧問に呼び出された赤司は一言、言われた。
―――君に任せる、と。
「斯く斯く然々こういうことなんだ」
きょとんとしていた部員たちに説明を終えると、全員が確かに、と頷いた。
「何か入部テストをするとか?」
一人がはい、と手を上げ発言するが、
「それも考えたんだが、毎年入部希望者は多いだろう。
全員にテストを課している時間はとれない」
困ったように首を振る赤司に却下される。
「フィジカルはさておき、それなりのメンタルを持つ者だけが残るような妙案はないだろうか」
そんな無茶な。
フィジカルが素晴らしくても、メンタルが弱ければここでは生き残れない。
欲しいのは、生き残れる者、なのだ。
「あ、明日の新入生オリエンテーションで何かやると言うのはどうっスかね」
しばらくして、ひょい、と手を上げたのは黄瀬だった。
「確かに、あれならば授業時間中だからな。
練習時間がどうこうなることもないのだよ」
「ふむ、涼太にしては良い考えだね」
部活動が盛んな帝光中では必ず何かの部活に所属することが義務付けられている。
そのため、一年生に部活を紹介する、謂わば一年生の歓迎会みたいなものがあるのだ。
「寸劇をやるというのはどうでしょう?」
茶番ならいつでもやっていますし、と続いて小さく手をあげたのは黒子。
実力主義の帝光バスケ部だが、一軍内の仲はそれなりに良い。
バスケが絡めば紫原が暴言を吐いたり、それが原因で黒子と対立したりはするが、
休憩時間に全員で茶番をやってみたり、帰りはまとまって帰ったりする。
「新入生がドン引くような寸劇…」
「いつもの茶番では面白いだけだからな…」
ふぅむ、と沈黙が続く中、ようやっとそれを破ったのは、
「ね、赤司、一つ思いついた」
一緒になって考えていた同級生だった。
わくわくにやにやと話し始める彼に、釣られるように周りも笑い始める。
「ってのはどう?
今のは大雑把にまとめただけだから、修正入れて良いけど」
「いや、そのまま行こう」
笑いを堪え切れていない赤司が言い切る。
「全員聞いていたな?今のままで行く。
細かいところはお前たちのアドリブに任せよう」
おお、と盛り上がる一同に、赤司はぱん、と一つ手を打って、
「さ、この話はこれでおしまい。練習するぞ」
はい!と元気良く散らばる部員たち。
まさに五分クオリティであるこの寸劇。
一体どうなるのだろうか。
♪
『次は男子バスケットボール部です』
放送部のアナウンスが入って、舞台袖に待機していたメンバーたちは立ち上がった。
練習すらしていないが、失敗する気もしない。
「行くぞ、お前たち」
赤司の掛け声に、おーと小さい声が返って来た。
明るくなった舞台に、人が三人出て来る。
そのうちの一人、部長の赤司は普通の格好をしているが、後ろの二人は普通ではない。
その時点で新入生たちはざわざわし始める。
地蔵の被り物をした女子生徒―――桃井と、ノンラーを被った男子生徒―――黒子だ。
いつもは影の薄い黒子も、何やら可笑しな格好をしていることで普通に新入生に認識されている。
中央に立つ赤司がゆっくり礼をすると、二人はその後ろでゆるくパスを始めた。
どうやらこういう役らしい。
「只今より、
男子バスケットボール部の男子バスケットボール部による男子バスケットボール部のための、
寸劇を始めます。
それでは御覧ください。
―――真実の、愛を」
艷やかな声で言い切った赤司に、どっと会場が湧く。
出だしは好調のようだ。
赤司が舞台から退場するのを手を振って見送っていた桃井と黒子は、またパスを再開した。
入れ替わるように、肩を組んだ紫原と馬―――緑間が入ってくる。
再度会場が湧く。
勿論馬の所為で。
ご存知おは朝のラッキーアイテムなのだが新入生がそんなこと知る由もなく、
ただのウケ狙いとしてとられてしまったらしい。
まぁどうとられようと関係ないのでスルーだ。
「みなさんーこんにちはー」
間延びした声がマイクから流れる。
「バスケ部ですー」
紫原だ。
緑間は黙って手を振っている。
重ねて言うが馬だ、シュールすぎる。
紫原はちらり、と舞台袖を見やってから続ける。
「オレたちはー…」
「紫原!!」
それは遮られた。
のしのし、と舞台袖から出てきた青峰によって。
青峰の登場に呆けていた新入生は、一瞬置いて笑い出した。
何が可笑しいって、またもや格好が可笑しいのだ。
上は指定のワイシャツ、下は体育で着るハーフパンツ。
なんていうかものすごく、ダサい。
一見不良のようなガングロイケメンがこんなちぐはぐな格好をしているのだ、
笑わない方が可笑しい。
紫原はマイクを緑間に渡し、青峰に向き直る。
「オレとレスリングして、オレが勝ったら、紫原、付き合え!!」
効果音をつけるなら、ブフォッだろうか。
新入生が口に飲み物を含んでいなかったことがせめてもの救いだ。
紫原が何か答える前に、青峰が脚を踏み鳴らす。
だんっ!とその音に応えるように現れたのは、他の一軍メンバー。
全員が青峰と同じ格好をしている。
彼らは青峰を中心に構えを取り、紫原に対峙した。
今度の効果音はブヒャッだろうか。
新入生の腹筋が心配だ。
「全員で、かかってきなよ。捻り潰してあげる」
うおー!という雄叫びと共に、紫原に向かっていく勇者たち。
それを千切っては投げ、千切っては投げを繰り返している横で、緑間がマイクを握り直した。
「アーアー、出ているな。
男子バスケ部はバスケや総合格闘技などに日頃から取り組んでいる部活なのだよ」
大嘘である。
練習に充てられる時間を最大限に使って自身の向上に努めている。
「何処でも生き抜ける猛者ばかりな、とても楽しい部活なのだよ」
言いたいことは言った、と緑間が舞台中央に目線をずらすと、
物言わぬ屍となった勇者たちの中央に、青峰と紫原が立っていた。
どうやら最終決戦らしい。
勿論、屍となっている勇者たちは無事である。
念のため。
雄叫びと共に二人が組み合って、そのままぐるぐると回り、とうとう紫原が青峰を持ち上げた。
女子生徒だろう悲鳴があちこちから聞こえる。
そのままくるりと一回転させてから下ろし、地面に這いつくばる青峰を押さえつけた。
その口元に緑間がマイクを持って行くと、青峰が吠えた。
「ちくしょー!
三年になったら彼女作るって決めてたのに…!!」
紫原は彼女という括りで良いのだろうか。
一段落ついたか、と思いきや、今度は舞台袖から黄瀬が出て来た。
何ともまぁなよなよとした気持ち悪い歩き方で。
だが、そこは黄瀬である。
腐ってもモデルな奴は女子生徒の黄色い悲鳴を受けている。
無言で緑間からマイクを受け取った黄瀬は、
地に伏した青峰の横にしゃがみ込むと、恐らく今までで一番であろう慈愛顔を披露した。
「…大丈夫っス、青峰っち。…オレが…いるっスから…」
イケメンであろうと許されることとそうでないことがあるのだろう。
さっきとは違う色の悲鳴と、なお混ざる黄色い悲鳴で会場が埋め尽くされる。
危険を察知したかのように逃げ出そうとした青峰は、
舞台上にいた全員(死した勇者含む)に捕まっていた。
そのまま黄瀬と二人、囲まれる。
しばらくして人垣が崩れると、中から出てきた二人はひし、と抱き合っていた。
人垣組は殆どが舞台袖にはけてしまう。
桃井・黒子の背景ペアはまたパスを始めた。
「こんな不束者の集団だが、第一体育館で待っているのだよ」
残っていた緑間がまとめて、
「それでは最後に、めでたく結ばれたカップルから一言」
マイクを渡そうとして、失敗した。
馬の口部分に突っ込んでいたマイクが、何処かに引っかかったらしい。
異様な空気に包まれていた会場に普通の笑いが舞い戻る。
「なんなのだ、よッ」
力任せに引き抜いたマイクを無事二人に渡すと、緑間は舞台袖に帰っていった。
残された二人は小さくせーの、と言うと、
「ぼくたち!けっこんします!!」
何処か投げやりに叫んだ。
会場全体が引き笑いに染まる中、逃げるように舞台袖に帰っていく二人を、
桃井と黒子が仲良くパスを続けながら追う。
何はともあれ、大成功のようだ。
主に新入生をドン引きさせるという意味で。
♪
結論から言うと、男子バスケ部の目論見は成功したようだ。
その年の新入部員は例年と比べ少なく、夏を過ぎてもそんなに人数は減らなかった。
資金繰りもいつもより楽だったそうだ。
ただ一つ、ホモ疑惑が掛けられた黄瀬だけが、
「オレは女の子が好きっスよぉ!」
と喚いていたが、黄瀬目当てのギャラリーが減ったのだから良いとしよう。
「お疲れ様、赤司部長」
全中三連覇を達成した日の帰り、声を掛ける。
「三連覇、おめでとう」
「君たちマネージャーのおかげでもあるよ」
「そう言ってもらえると嬉しい、ありがとう」
桃井の能力には敵わないけれど、そう言ってもらえるのは普通に嬉しい。
「そういえば、あの寸劇を撮っていたよね」
唐突に投げられた言葉にぱちくり、と目を瞬く。
あの寸劇と言ったらあれしかないだろう。
撮ることは言ってなかったし、会場は基本的に真っ暗で、
一番後ろでズームを駆使して録画していた女子生徒の姿なんか見えないはずなのに。
他に流すようなこともしていないし、自分の思い出のためだけに撮ったものだから、
特に怒られることはないと思うけれど。
「…だめだった?」
「いや。
それで金稼ぎとかをするようなら取り上げようと思っていたけれど、
そういうのもなかったようだし」
流石赤司というか、何処で知ったのだろう。
聞かない方が良いとは思うが。
「バスケをやっている写真はきっとあっちこっちにあるんだろうけれど、
そういう馬鹿をやった形は残っていないだろうな、と思ってね。
よければ譲ってもらえないか」
再度ぱちくり。
赤司もそういうものを欲しがるんだな、なんて。
「いいよ。今度焼いて来る」
「ありがとう」
最後に同級生であることを実感して笑った。
20121113