せんせい、おしえてください。:黛葉
まぁそういう本を読むのが趣味なのは知っていた。
葉山は自分を落ち着かせるようにそう思う。
ライトノベルとされる本は萌えるをコンセプトにしたものから、
あれこれちょっとした文学じゃね?的なものまで幅広くカバーしていることも一応頭にあった。
頭にはあったけどこれはさぁ、と至極平和そうに寝こけているこの部屋の主を見やる。
すうすうという規則的な呼吸、今すぐに起きるということはなさそうだ。
葉山は彼を起こさぬように極力小さく、だけれども全力で長く、ため息を吐いた。
そもそも何故葉山が黛の部屋にいるのかと言うと。
前回の試験が赤点ぎりぎりだったことが赤司に知れていて(今更何故かなんてツッコまない)
(だって赤司だから、で済んでしまうのだから)、
千尋に教わっておいで、と言われてしまったから、としか言い様がない。
同学年の人間を指名しなかったのは、
一年の間に誰に教わっても無駄だったことが、実渕や根武谷から伝わっていたからなのだろう。
葉山は頭が悪い方ではなかった。
なかった、と過去形なのはその成績が回を追うごとに徐々に落ちていってるからである。
最初は追試にすら引っかからなかったはずなのに、
今では赤点ぎりぎりという恐ろしい落ち込みようだ。
このままでは次の試験では赤点は確実だろう、周りがそう思うのも無理はない。
という訳で、赤司にそう告げられた時、
たとえそれが気に食わない先輩であろうと、葉山は抗議することが出来なかった。
黛は黛でおもいっきり嫌な顔をしたものの、
赤司から葉山の成績を見せられると、こちらを憐れみの目線で見てから静かに頷いて引き受けた。
このやろう。
そして部活が休みのこの日、寮の黛の部屋にて勉強会は行われることとなった。
彼の教え方はそこそこに分かりやすく、
一通りの説明が済んでしまったらあとは演習問題をやるだけになった。
途中で分からない場所が出てきて聞こうと顔をあげたら、
目の前の先生は机に肘をついたまますやすやと眠っていたのである。
起こすのもなんだかなぁ、と思った次に湧いてきたのは悪戯心ともいえる好奇心で、
ペンを置いた葉山はひっそりと、物音を立てないようにその部屋の物色を始めた。
そして、見つけてしまったのである。
興味本位でぺらぺらと捲ったそれはなんというか、そう、控えめに言って、
只今十七歳である葉山は読むことを法律やら条例で規制されるようなそんなものだった。
「か、完全にアウトでしょ…これ…」
と、口では優等生じみたことを言ってみるもののそこは健全な男子高生。
手元にあるのなら気になる。
本能のままに読み進めて行って、とうとう次のページで、と思った時。
「へーそういうのが趣味なの、おまえ」
ひょい、と後ろから取り上げられた本に、あ、と声をあげる。
いつの間に起きたのか、
いつもよりもぬぼーっとした顔で、この部屋の主は本を大事そうに本棚に戻した。
「な、べつに、ちが、ってか急に取り上げないでよ!」
「やだよ、おまえ汚しそうだもん」
汚し、って、と問う前にその意味を理解してかっと頬が熱くなる。
「まっ、黛サンじゃあるまいし!そんなことしねーしっ」
「そんなことって?」
にまにまと笑う黛に何を言うことも出来ずに、うう、と唸るしかなかった。
「悪いわるい、意地悪しすぎたな。演習終わったのか?」
「分かんないとこあって止まってたの!聞こうとしたら黛サン寝てるしさ」
「へぇ、それで家探しか。随分次のテストに自信があるんだな?」
「うっ」
「…ほら、何処だよ、わかんねーの」
さっさと机に戻ってしまう先生に従って、もといた場所に座る。
やっぱり分かりやすい説明で分からない設問は越えられたけれども、
心臓が妙に煩い理由は、結局最後まで分からなかった。
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黛さんの部屋で美少女文庫の本見つけた葉山くん
20140505