偶蹄の強襲
「やぁ、弘」
ピンポーンと山崎家のチャイムが鳴って、いつものように山崎は玄関へ走った。
まだ背の足りない山崎はインターホンの画面を見ることが出来ないけれど、
古橋だ、開けてくれ、という声は間違いなく自分の慕っている人物のものだ。
隣の家に住む古橋はコーコーセーだ。
幼い山崎を一人家に残して行くのが心配だという両親に、
じゃあ時間の空いている時は面倒を見ますよ、と申し出た物好きな人物。
コーコーセーというものがあっちこっち遊びまわる生き物なのを、
山崎は幼いながらに理解している。
だからこそ、自分なんかに構う古橋は変な奴だと思う。
構って欲しくない訳ではないが。
自分がまだチビな餓鬼だということをそこいらの子供よりかは自覚している山崎にとっては、
複雑で複雑な心境である。
それに、古橋の周りには男の影がちらほらしている。
例えばドーキューセーのセトだとか、カテーキョーシのハナミヤだとか。
どちらも背は高いし頭は良いし、ハナミヤに関して言ってしまえば完全に大人の男だ。
クラスで背の順は後ろの方とは言えども山崎が到底敵わないと思ってしまうような。
頭を振って浮かんできた様々なライバルたちの顔を振り払う。
今はそんなことはどうでも良いのだ。
今日はセトもハナミヤも一緒ではないはず。
せっかく二人きりなのだから、おじゃま虫のことは忘れてしまおう。
「いらっしゃいませ、ねーちゃん!」
鍵を開けて、山崎は勢い良く扉を開けた。
「…え?」
たっぷり間を開けてやっと吐き出された言葉は何とか疑問符の形を保っていた。
玄関を開けた先にいたのは間違いなく古橋だった。
しかし、問題はその服装だ。
牛、だろうか。
いつもの制服とは大分違った、とても布面積の少ない服である。
「部活の新年会だったんだ」
今年の干支は丑だろ?くじ引きでこの格好になったんだ、
と伝えてくる古橋に、山崎は尚もぽかん、としたままだ。
少し骨ばった肩やら、むきゅっとした谷間やら、綺麗にくびれた腰やら、
いつもの制服では目にすることが出来ないような部位が惜しげも無く晒されている。
山崎とて小学校でプールの授業はあるし、数年前までは母親とお風呂に入っていたのだし、
見たことがない、という訳ではないけれど。
古橋のそれはそのどれともまた違ったものに見えた。
「え、あ、」
何を言ったら分からなくて古橋を見つめる。
「弘?」
ふっくらとしたマシュマロみたいな胸がぷりん、と揺れるのが嫌でも目に入って、
心臓がどきどきと鳴るのが格好悪い程に聞こえた。
「こ、こんな格好して、襲われたって知らねーぞっ」
女の人の胸をじろじろ見るのはイケナイことだと教わった山崎は、
そう言いながら目を逸らそうとするも、ふわふわなそれから完全に目を逸らすことが出来ない。
襲うというのはえっちなことをすることだと、花宮に教え込まれている。
それをするのは紳士的ではない、とも。
それは古橋に対するストッパーとして花宮がせめてもの良心で叩き込んだ良識であったのだが、
そんなことを幼い山崎が推し量れるはずもない。
一生懸命に目を逸らそうとしている山崎に古橋は笑って、
「大丈夫だ、瀬戸が守ってくれてたからな」
「またセトかよ…」
もう聞き慣れてしまったその名前に山崎はぷう、と頬を膨らませた。
自分のような餓鬼ではどう足掻いても敵わないのは分かっているけれど、
気に入らないのも事実で。
「せっ、セトに襲われたって知らねーからな!」
のんべんだらりしてはいるが、あれも男である。
しかも割りと古橋と過ごす時間の多い男である。
山崎にとっては不安要素の一因以外の何物でもない。
そんなことを考えながら視線を尚も彷徨わせる山崎を、
古橋はただ黙ってじっと見ているだけだった。
「な、なんだよ、人の顔じろじろ見てっ」
それに居心地が悪くなった山崎がむっとした顔で言う。
古橋はふっと笑って瀬戸は私を襲わないよ、と呟いた。
そしてそのまま続けるように、
「弘は襲ってくれないのかな、と思って」
ふわり、と笑った顔がやっぱり綺麗だな、と思って古橋の発言の不穏さに気付くのが遅れる。
「は、はぁ!?」
ぶわわ、と一気に体温が上がったような気がした。
「な、何言ってんだよ、ねーちゃん!?」
思わず、と言ったように一歩下がる。
だが、子供の一歩だ、大した距離はとれていない。
熟れたトマトのようになっている山崎に、古橋は首を傾げる。
「襲ってくれないのか?」
「襲わねーよ!だ、だって俺は紳士だからな!!」
女性に対しては紳士的であれ、お前なら出来る。
そう輝くような笑顔で言ってきた花宮が純粋に嬉しくて、
絶対にそうあると軽々しくも誓ったのは記憶に新しい。
そんな山崎を見てふむ、と頷いた古橋は手を伸ばした。
「弘が襲わないなら、」
ぐい、と急に引き寄せられて倒れこむ。
ふにり、とした二つのものがこれでもかと言う程身体に押し付けられていて、思わず硬直する。
「私が襲おうかな」
ぱちくり、とその大きな瞳を瞬かせていた山崎は、
するりと服の下に滑り込んできた指の感覚にはっと我に返った。
「ねーちゃん、だめだって!」
自分より大きなその手をきゅっと掴んで必死に訴える。
「何故?」
「は、ハナミヤがだめって言ってた!」
「花宮先生が?」
「う、うん。大人になるまで、え、えっちなことはだめ、だ、って…」
アイツ偉いんだろ?偉い人の言うことは絶対だろ?と首を振る山崎に、
はぁ、と古橋がため息を吐く。
「ひろし」
耳元で囁かれたそれに、びくり、と肩を震わせる山崎。
「花宮先生だって間違えることはあるさ、それとも、」
私とこういうこと、したくない?
そう言われてしまえば、もう古橋を拒むことなど出来なかった。
玄関の鍵を閉めた後、山崎は手を繋がれ自分の部屋まで連行された。
「弘」
とろり、とした声で呼ばれる。
するすると脇腹を滑る指はくすぐったいはずなのに、
その声やら表情やらがいつもと違うというだけで、違う感覚のようだ。
「脱がすぞ」
山崎の返答を待たずに古橋はズボンに手を掛ける。
あっという間に下着まで剥ぎ取られ、山崎の下半身が古橋の目に晒されることとなった。
「かわいいな」
まじまじと見つめられるとどうして良いのか分からなくなる。
「弘、もう少し手前に座ってくれるか?」
「こ、こうか?」
「そうそう」
ぱちん、とボタンの外れる音がやたら大きく聞こえた。
締め付けのなくなった胸がふわんと揺れるのを思わず凝視してしまい、
はっと我に返って目を逸らす。
そんな山崎を見ながらももう古橋は取り立ててからかうこともしなかった。
そのまま胸を前に寄せてまだ未発達なそれを包み込む。
「ん…っ」
ふわふわなそれにきゅうと優しく締め付けられ、胸がどくどくとうるさかった。
むにゅむにゅと触れ合うそこを見ていられなくて顔を上げる。
目があった古橋は今までみたことない程とろりとした表情をしていて、どきりとする。
「かたくなってきたな」
埋もれかかっている先端にれろ、と舌を這わされた。
「ねーちゃん汚いってば…!」
「でも、こうすると気持ちいだろ?」
生ぬるい舌の感覚が増すと、確かに古橋の言う通り、背中がぞくぞくと撓る程気持ちが良い。
「や、あッ」
その反応がお気に召したらしい古橋はにこっと笑うと、
その口を大きくあけて、そのままぱくりとくわえ込んだ。
暫く口に手を当てて声を抑えていた山崎だったが、
「やだっ、なんか、へんっ」
何かせり上がって来る心地がして必死に古橋に手を延ばす。
さらさらとした大人の手がそれを優しく包んだ。
「大丈夫、それは変なことじゃない」
それを縋るように握り返すと、大丈夫だ、とくぐもった声が返って来る。
声がダイレクトに身体に響いてくるような感覚に、
せり上がるものが後押しされているようだった。
「は、あ…ッ」
頭が真っ白になって、くた、と力の抜けた身体をそのままシーツに預ける。
脚はガクガクと震えているし、今すぐに眠ってしまいそうな程だ。
「…あ」
だから、その感覚に気付くのが遅れた。
ちろちろ、と古橋の肌を伝う液体は確かに黄色をしていて。
さぁ、と血の気が引いていくのを感じる。
「ご、ごめ、ねーちゃ、」
「ひろし」
「は、はい」
怒られる。
そう身構えて思わず敬語になる。
「これ、誰にも言われたくない?」
頷いた。
当たり前だ、小学校二年生になってもまだお漏らしをするような奴だと思われたくない。
「じゃあ、またこういうこと、しような」
「お、怒って、ない、のか?」
「怒ってるぞ?」
ふわり、と微笑むその瞳を何処かで見たことがある、と山崎が思う。
「だから、今度はお漏らししないように、な」
優しい指先がつい、と顎を持ち上げた。
接吻けの前のその合図にそっと目を瞑ってからああ、と思い出す。
この間テレビでやってた、サバンナの動物特集。
それに出て来た、獲物を狙うヒョウの目と、同じだと。
けれど接吻けはいつものように優しくて、きっと気のせいだったのだと思った。
思うことにした。
『古橋が干支にちなんだ格好で、
気の強そうな8歳位?の男の子に
パ[自主規制]リフ[自主規制]ラしちゃう』
診断メーカー
20131023