おなじなまえ 今諏佐前提のモブ(名前付き)諏佐

 桐皇学園高校三年には「すさ」という苗字が二人いる。同じ漢字ならば良かったのだが、厄介なことに一人は諏佐=Aもう一人は須佐≠ニ微妙に違う所為で、呼ぶ時はともかく書面では良く間違えられる。
「ひっすん」
「…植村か」
声を掛けられてそちらを向く。ひっすんというのは俺のあだ名だ。必須の須が使われている方の須佐だからひっすん。付けられた当時は普通に名前で呼べよ、と思ったが、割とこれで間違える人数は減ったから今はつけた奴ナイスセンス、と言いたい。
 視界に入った植村は少しだけ眉を下げていた。
「怖い顔してるよ」
「…悪い」
「ひっすんは結構顔に出やすいよね」
事情を知らない奴には誤解されちゃうよ、と囁く植村には全て話してあった。そうだな、と答えてまた視線を戻す。その先には二人組。この学校の中でもそれなりの成績を残しているバスケ部の二人組。
 その片方が、俺の視線に気付いたのかこちらを向いて、それからにやり、と笑ってみせた。同じ苗字でない方だった。今吉。バスケをする上で性格がこの上なく悪いと言われているそうだが、日常生活で言われていないのが可笑しいと、そう思うくらいに俺はその性格の悪いところを見ている。
「あー今吉」
「今のわざとだろうな」
「だろうね。ひっすんが怖い顔してるから」
「はいはい、気を付けますよ」
次の教科は数学だった。机の中を覗いて教科書を探す。
 俺の方が先だったのに。目をつけたのも、とっつきにくかった諏佐に声をかけたのも、仲良くなったのも、俺の方がずっと先だったのに。この似ている苗字だって力強い武器だったはずなのに、全部横から掠め取られたように。
「ひっすん」
「分かってるから」
「…分かってるなら良いんだけどね」
植村の心配そうな声をかき消すように、授業五分前のチャイムが鳴った。



20160922