この手を離さない:山古
「別に、来なくても良いんだぞ」
そう言葉にしたのは返って来るのが否定だと知っていたからだ。
自惚れもここまで来たか、とは思うけれど、きっと山崎には伝わっていない。
「俺が好きで来てんだから良いんだよ。
お前が嫌だって言うなら考えるけどよ」
予想に違わず山崎は少しだけ顔を顰めて、拗ねたような空気でそう言った。
笑う。
こんなにも甘やかな人間に手を差し伸べられていることは、ひどく幸せだと思う。
この不健康な生活に対して、山崎がいろいろと言いたいことを飲んでいることには気付いていた。
それでも知らないふりをするのは、
それがいつか罪悪感となって山崎を縛る鎖になるだろうからだ。
正しくない価値観を目の前にしてどうしようも出来なかった、
そうして後戻りが出来なくなってしまった古橋を見て、
己の無力を嘆く日がきっと来るのだと、古橋は信じて疑わないからだ。
「嫌な訳ないだろう」
そうしたらもう、山崎は逃げられない。
「オレはお前が来てくれることが、こんなにも嬉しいのだから」
分かりやすく耳を色付ける山崎にずきりと痛んだ胸のことは、気付かなかったふりをした。
20131120
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