水と空挟んだ解えは何処?:花黒
信号の点滅に足を止める。
此処の横断歩道は長くて、点滅が始まってからでは渡りきれない。
それを花宮は知っていたので足を止めた、それだけだった。
「あ」
上がった声はどちらのものだったか、はたまた非常に腹立たしいことにハモったのか。
目を逸らしたら見失ってしまいそうな、
そんな存在感をした、この上なく気に入らない人間を見て、花宮は隠すことなく顔を歪めた。
花宮さん、と呼んだのはついこの間対戦した、誠凛高校の影の薄い一年だ。
こちらのことなど嫌いだろうに、どうして話かけてくるのか。
理解しがたい、と花宮は首を振る。
「この辺りで何をしていたんですか?」
穏やかな声。
また先輩たちに、という警戒は感じられない、だがただ聞いただけ、とも取りにくい。
花宮は答えなかった。
嫌いな人間と、既に本性も知られている人間と、
にこやかに話をしてやるだけの価値を黒子に感じなかった、そうとも言い換えられる。
穏やかではあるが、何処か独り言のような声だった。
独り言だからこそ穏やかなのかもしれない。
黒子は花宮から答えが返って来るとは思っていないようだった。
その証拠にこちらを視認したきり、そのうっすらとした瞳は花宮を向かない。
花宮と同じように、赤信号の残り時間を示す点滅を見つめている。
「花宮さん、知っていますか」
黒子は相変わらずこちらを見ずに続ける。
疑問符はついていなかった。
花宮の沈黙を曲解したのかもしれなかった。
信号機の赤い表示がまた一つ減る。
「殴られたら痛いんですよ」
あと三秒で青信号に変わる。
「殴った方も、痛いんですよ」
結局言葉を一つも返すことなく花宮は歩き出した。
白黒の歪なその線の上を歩きながら馬鹿馬鹿しい、と思う。
そんな当たり前のこと、痛いほど分かっている。
後ろから水面のような瞳がまだこちらを見遣っているのなど、振り返らずとも分かっていた。
image song「金魚の箱」東京事変
20141103