眼鏡少年の受難:緑間と高尾



緑間真太郎がバスケを始めたのはミニバスからだった。
小学校高学年、体育でやったバスケでその才能の欠片を発揮し、
当時同じクラスにいたミニバス所属の友人に誘われたのが始まりだ。
今は190超えという高身長な緑間だが、小学生時代はそうでもなかった。
周りに埋もれるくらいの普通な身長の彼は特に目立つでもなく、
固いディフェンスや鮮やかなシュートというのが彼の持ち味だった。

「うっわ、幼い!真ちゃん、これ何歳?」
「小学校五年生の時のパナ○ームカップの写真なのだよ」
「へー真ちゃんこの時から試合出てたの?」
「まぁな」
どういう話の流れかは忘れたが、真ちゃんのちっさい頃とか見たい!!と騒ぐ高尾に、
写真ぐらいは良いか、と家に来ればいいと誘ったのが今日の部活終わり。
ミニバスに励む息子に母親は何か思うことがあったらしく、
試合の度に不似合いな程大きなカメラを担いで撮影してくれたので写真は大量にある。
懐かしいな、と高尾の見ているものとは別のものを手にとり、思い出に浸る。

そのほのぼのとした空気を切り裂いたのは、
予想通りと言うかいつも通りと言うか、高尾の笑い声だった。

「ぶっは!真ちゃん、これ…!!」
笑い始めた高尾に最初は戸惑ったものの、
直ぐに思い当たってアルバムを取り返そうと手を伸ばす。
が、高尾もそれを予想していたらしく、空振りに終わる。
「た、高尾!返すのだよ!!」
「いや、これは返せない!」
語尾に大量の草を生やした状態で何を真剣に。
誰か芝刈り機か除草剤持って来い。
「真ちゃんもパンダやったことあるんだ…!」

さて、バスケというのはわりとぶつかり合いの激しい競技である。
それが低年齢になればなるほど戦略は皆無でがむしゃらになる確率は上がる。
力はないがそうした特攻思考は時には激しい衝突(物理)を引き起こす。
それは普通ならばただ痣が出来るだけで済むかもしれないが、
緑間のような眼鏡少年または少女にとってはそれだけでは終わらない事態なのである。
例えば手が顔に当たる、というそれだけをとっても、
眼鏡がなければべちん、で終わるようなところが、
眼鏡があるだけでガッに変わってしまうのだ。
擬音だけじゃ分からねーよと思った皆様には申し訳ないが、
それくらいしか表現方法が見当たらない。
つまるところ、固い眼鏡が間に挟まることによって、
その周辺へのダメージが増えるのであった。
「…眼鏡をかけている者は、一度は通る道なのだよ…」
誤魔化すように眼鏡のブリッジに手をやる緑間の耳は赤い。
「やっぱりそうなんだー」
写真の中の幼い緑間の左目の辺りには、くっきりと眼鏡の痣が出来ていた。
まるでパンダのように。
「これ、痛かったっしょ?」
「ああ。この時眼鏡は真っ二つになったのだよ…」
ため息。
「今はもう流石にならねーよな」
「そうだな。中学からは眼鏡を修理に出すことはなくなった」
年齢があがるにつれ経験も伴い、咄嗟に手が出るということがなくなるのだろう。
そうして眼鏡少年少女の受難は徐々に減っていくのである。
避けろよ、という声も上がるかもしれないが、全てを避けきれる訳ではない。
それでなくても全速力で動いているのだから、勢いを殺せないこともある。
目を閉じて再度ため息を吐いた緑間の耳に、ピロリン、という軽快な音が聞こえた。
「…高尾?何をしているのだよ」
「何って写メ撮ってる」
「一応聞くが、それをどうする気なのだよ?」
「先輩方に見せようかと」

その後の攻防戦では、高尾が辛くも勝利を収めたことを報告しておく。



20121105