君の生き抜いた証:諏佐かず
「前髪を伸ばしているのには、何か理由があるのか?」
諏佐さん補充〜と抱き付いて来た原を好きにさせながら頭を撫ぜて、
諏佐はふと問いかけた。
「別に答えたくないならそれでも良いが」
何かと秘密ごとの多い原にそう付け足す。
人間答えたくないことの一つや二つはある。
原にはそれがちょっとばかり多いだけの話だ。
「ん、傷があんの」
少しだけ間を開けてから、ぐりぐりと肩に額を押し付けてくる。
「ちっちゃいとき、ホントにちっちゃい時で、オレは覚えてないんだけど、
父親がね、見に来たんだって、オレのこと」
静かに語る原に、諏佐は相槌を打つだけに留めた。
こういうときは多少沈黙が続いても、聞き役に徹する方が原には良いらしいというのは、
この短い期間で諏佐が読み取ったことだった。
「あの人は会わせないつもりで、
だってオレのこと、産むなって言った人だから、殺されるかもしれないって思ってたみたい。
別に、殺すつもりはなかっただろうけどね。
でも、その人は入って来て、オレのところに来て覗き込んだんだって」
ベビーベットの中ですやすやと、幸せそうに眠る子供。
何も知らないきれいなきれいな存在。
それが、男の目にどう映ったのか、想像すらしたくない。
「すぐにね、あの人が止めたけど、男の力には敵わないでしょ?」
幼子の泣き声が聞こえるようだった。
原が口を噤む。
話は此処で終わりのようだ。
「…触って良いか」
頭を撫でながら問う。
「これ?」
「ああ」
前髪の上から額を指す原に頷く。
そこに傷があるのだろう。
「…諏佐さんなら、良いけど」
許可を貰ったので撫ぜていた手を前に回す。
親指で辿ったそこには確かにでこぼこしていた。
手の下で不安げにこちらを見つめる原とかち合う。
「…なんて顔してるんだよ」
「だって」
言葉にならなかったようで、代わりとでも言うように抱き締められる。
諏佐もそれに応えるように抱き締め返した。
(隠したいものがある説→傷)
20130719