大丈夫だからもう誰もいないから歌って聴かせてよ 山古

 お前の方から嫌いになってくれ。そんな言葉を言われれ頭を殴られた気がした。別に、動揺した訳ではない。ただ。
「おまえ、本当にばかなんだな。ばかでもいいんだけど、っていうかもう、一生ばかのままでいてほしいくらいなんだけど」
言葉が零れ出る。
「それ絶対、一生ないから」
「絶対なんてないだろう」
「絶対なんて絶対ない、ってそれがもう既に絶対です≠チてか?」
「…貸したアルバムちゃんと聞いてたんだな」
心底意外そうに古橋が言った。だから山崎は目を細めて返す。
「当たり前だろ」



愛してる』とは言えないから、山崎くんに古橋くんは「君の方から、嫌いになってよ」と口にする。
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image song「37458」RADWIMPS

***

おそろい 山古

 しあわせすぎるんだ、と古橋は言った。
「だから、何か、したくて」
だばだばと落ちる赤を見て山崎がすることは一つしかない。
「…お前って、ほんとに馬鹿だよなぁ」
ため息。
 そのもう一個の方寄越せよ、と言ってばちん、同じところに穴が空いた。



世界とはあまりに高き熱量をもてみみたぶを切り落とすもの / 中澤系

***

恋に落ちるのに時間はかかりますか? 山古

*魔法少女古橋

 時間は掛かっただろうか、と思い出そうとすると、いつだってその記憶は桜色に染まってしまって思い出せない。
 花吹雪。
 そんなものじゃあなかったと思う、けれども。
「なあ、古橋」
呼んでみる、振り返る。いつもと同じ動作。
 のはずなのに何か、違和感、が。
「ふるは、」
手を伸ばす、古橋も、手、を。
 伸ばさない。
「ごめん、山崎」
これは夢なんだ、だから、ごめん。
 花吹雪。
 目が、醒める。
「古橋ッ」
「え、誰それ」
起き上がったそこは教室で、隣の席の原が律儀にツッコミをしてくれた。カノジョ? なんて聞いてくる。気になる子? なら俺、手伝うけどー。
 全部、嘘だと言ってほしかった。
 夢なのはこっちだと、そういうことを言って欲しかった。



ask

***

ぼくにはできないこと 山古

*魔法少女古橋

 古橋康次郎という人間を知っているか、と誰かに問うたとする。それが誰であれ返される言葉を山崎弘は最初から知っている。
―――知らない。誰、それ?
古橋がどうして世界なんてものを救う羽目になったのか、どうして自分自身の存在を犠牲にしてまで世界を守る決意なんてものをしたのか、どうして最後に山崎に会いに来てくれたのか、そんなことは考えたって答えの出ないことで、結局答えを唯一出せるはずの古橋はもうこの世界にはいないのだけれども。
 一人の屋上はあまりに寂しかった。
 何度も何度も、という訳ではない。ただそれでも絶対にゼロではない回数、山崎と古橋はこの屋上で共に昼食を取った。学校の屋上なんて寒いだけで、フィクションの中のように居心地のいい場所ではなかったけれども、一人と一人が寄り添って二人になる瞬間が、なんとなく特別な気がして山崎は好きだった。
 好きだった、のに。
 息を吐く。どうして、どうして、どうして、幾ら言葉にしても何も変わらない。変わらないし古橋は帰って来ない。誰も古橋のことを思い出さない。古橋のおかげで、この世界は今もこんなに平和なのに。
「………ばか」
こぼれる。
「…ッばか、やろう」
 空は、何処までも青かった。



君だけが戦うことを許された世界のことを許しはしない / 黒木うめ

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飽きるほど約束し合った言葉 

*魔法少女古橋

 おまえのこと、ぜったいにわすれないよ。
 せかいがおわってもずっといっしょだよ。
 人は幼い日の約束などなかったも同然だと言うだろうか、山崎の中にあるそれらはあとから湧いてきた空想なのだと、そう言うだろうか。
 山崎弘に幼馴染はいない。いないはずだった。それでも耳の中でわんわんと響く。古橋に似た声が、やくそくだよ、と言う。
「何が本当なのか、分かんねえんだ」
呟いた言葉は宙に消えた。
 古橋の存在についてともその中に入っているなんて、山崎は信じたくなかった。



@mtreho

***

シンデレラストーリーの舞台裏 

*アイドル橋

 どうがんばっても無理だ、というのは最初の頃だけの愚痴だったなぁ、と山崎は思う。可愛い衣装、可愛い歌詞、可愛い振り付け。アイドルとして必要なものはすべて山崎が用意したと言っても過言ではない。
 要は自信がなかっただけなのだ。
「古橋」
出番だ、と呼ぶ。古橋はすっと立ち上がる。
「山崎」
「なんだ」
「ちゃんと、見ていてくれよな」
じっと見つめる瞳に僅かな揺れを感じ取った。
「…ああ、ちゃんと見てる。だから頑張ってこい、俺のシンデレラ」
周りがまたやってる、と言ったように呆れた顔をしたのが見える。その中で、古橋は嬉しそうに頷く。
「いってきます」
誰がどんな顔をしたって。
 古橋は山崎のシンデレラなのだから、これくらい許されるだろう。



がらくた
@grktodai

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ミアメール融解温度 

 山崎弘の部屋にそれはいた。現れたのは数日前のことである。最初は驚いて叫んで知らないひとが部屋にいる! と近くに住む花宮の家へと走っていったものだが、一緒になって様子を見に来た花宮に何もいねえじゃねえかと返され、でもいたのかもしれないな、と珍しく優しくされて、うっかり涙まで零れそうになったところでまだそれが部屋の中にいることに気付いた。だって、まず、玄関に見知らぬ靴が置いてある。黒いその靴は律儀にも揃えられていた。意味分かんねえ、と二度目の悲鳴を上げたところで花宮は怪訝そうに顔を顰めた。そこであれ、と思う。ここで冷静になれたのは今思ってみるととんでもない収穫なのだが、まぁそれはさておき。
 わさり、と動いたそれにひっと声をあげる。更に花宮の眉間の皺が深くなった。これはあれか、もしかしてあれなのか、そう思いながら花宮から離れないでいると、珍しい―――非常に珍しい表情で、花宮が話しかけてきた。つかれて、いるのか。ああやっぱそうくるーと思いつつそうかも、と返す。とりあえず今日はお前んち泊めて、まぁいいけど。そんなふうに話しながらきっちり鍵を閉めて、その日は花宮の家で眠りについた。
 そうして一晩経って返って来た我が家に、やはりそれはいた。でももう反応しないことにした。昨日の反応から見て、花宮にはこれが見えていなかった。これまで幽霊の類が見えたことはなかったけれど、そういうものだろう。それか幻。自分にそう言い聞かせて、今までと変わりなく日常を。
 過ごせるほど山崎は図太い人間ではなかった。
 まぁそこそこ図太い、というのはそうだが。どうしても、気になる。気になりすぎる。何処が、問われればまずその外見について述べるだろう。見る限りではそれは男である。一応足もついている。手も同様。頭については分からない。何故ならその部分を覆い隠すように、紙袋が被せられているのだから。紙袋って。突っ込みたいのを抑えて、ちらちらとそれを見やるだけに留めた。こういう類のものは存在を認めたら終わりだ、幽霊でも幻でも。知らない知らない関係ない。
「おい」
「あ?」
あ。
 うっかり、返事をしてしまった。

***

足枷などない日常 

 教科書に、故郷という話が載っていなかったか? 古橋の言葉に山崎は少しだけ思い出すようにううーん、と唸って、それからああ、偶像崇拝の、と言った。なるほど山崎はそちらの印象が強かったのか、と思いながらそれだ、と頷けばそれがどうかしたか? と問われる。別段意味があったかと言うとそうでもない。ただ古橋はあの物語で始めて纏足という概念を知ったものだから。ヤンおばさんはあまりにも強いキャラクターだったため、その後に調べて知ったような印象とはうまく結びつかなかったが、あの頃から古橋は自分の足が成長していくのが不思議でたまらなかった。
 何もしていないのだ。ならば成長するのは当たり前だろう。小学生の頃はまだ小さかったはずの足はすくすくと成長して、あの頃は同年代の女子よりも小さかったはずが今や一回りは余裕で大きくなっている。それを見る度に大人たちは背が高いものねえ、と言うのだが、古橋にはその因果関係は分からなかった。小さい方が良いという訳ではない。けれどもただ、大きく成長していく自分の足が自分のもののようではなくて、飲み込めずにいた。
「あの話も、今思い返すといろいろ…なんてーんだろ、思うことがあるよな」
山崎は言う。
「お前はどうだった?」
「どう、と言われても…。主人公たちの気持ちが分からなくて困ったな」
「あー、確かに。答えは分かるけど納得出来ないとこあるよな」
 ぐるぐるに雁字搦め、身動き一つ取れないよりは。
「…山崎は、」
「ん?」
「女子の足のサイズについてどう思う」
「唐突だな!? 普通に、小せえな、って思うよ。電車とかで隣に女子とか来ると大きさ比べられるし、ビビる」
「そうか」
「古橋はねーの? そういうの。…あ、小さい方が好きみたいな話だったか? 今の」
「別に、そういう訳じゃあない」
「そーなん?」
「そうだ。山崎は?」
「小さい方が、みたいな話? 俺は別に…あ、でも、小さすぎるとやっぱ不安になるよな」
 別の生き物みたいで。
「………そうか」
その言葉にやっと、自分が笑みを浮かべたのが分かった。それに山崎が露骨に安堵するのも。
「オレもそうだな。小さすぎると、時々怖くなる」
だから嘘を紡ぐ。
 いいことだよ、と昔誰かが言った。
 古橋はどうしても、その言葉を信じられずにいた。



その日々に戻れぬことは知っている靴屋の鏡に足をうつして / ひぐらしひなつ

***

まめサンドイッチ 

 山崎と古橋は一緒に暮らしている。古橋の方が家を出る時間が大分早いため、朝食の担当は古橋だ。毎日古橋が作ってから出て行く。その代わり山崎が夕飯を担当している。昼食は各自に任されている。それに少なくとも山崎は不満はなかった。が、今日になってもしかして、と思ったのだ。古橋はこの状況に何かしら不満があるのかもしれない、と。何故そんなことを思ったかと言うと、ここ三日ほど、立て続けにパンに豆を挟んだだけの簡素なサンドイッチを出されているからだった。簡素、とは言ってもまずくはないし、寧ろ美味しいし、味に文句はないのだけれどもそれがもう三日も続くとなると何かの抗議活動かと不安になるのも無理はないと思う。
 けれどもちょうど今は二人の生活リズムがまったくかぶらない時期で、山崎が仕事から帰ってくると古橋は寝てしまっている。山崎は仕事に行く前に古橋の分の食事を作っておいてあるから、家事をしないことへの講義ではないはずだ。ならば、なんだろう。考え始めるとあれもまずいのではないか、これもまずいのではないか、と思ってしまう。メールで聞くという手段も勿論あったが、メールで唐突に豆続いてるけどなんか理由あんの、と聞くのも文句を付けているみたいで嫌だった。
 冷蔵庫を覗いてみたら豆がどっさりと詰められていた。やっぱりこれは何かの抗議活動なのかもしれない。ぞっとする。このまま山崎は古橋に捨てられてしまうのだろうか、そんなところまで思考が飛ぶ。結局メールでは聞けずに、それから四日ずっと続けて豆のサンドイッチだった。味つけも毎度違うし文句はない、本当にないが、何か不安になってくる。何故だろう、本当に何故だろう。怖い。
 そうして豆づくしの一週間が終わって、ようやく二人の休みが被った日。
「…おはよう、古橋」
「おはよう、山崎」
起きると既に古橋は起きていた。そして食卓にはやはり豆のサンドイッチ。顔を洗って食卓について、一週間ぶりに古橋の顔を見て。
「豆っ、」
「うん?」
「………好きなのか?」
「いや、特に。ただ安かったから買い込んだだけだ。飽きたか?」
「ううん…美味い。あー…そっかあ…」
気が抜けたような山崎に古橋は笑って、ああ、意味なんかないさ、と笑った。
「もし、文句があったら、」
 古橋は山崎の不安などお見通しのようである。
「…おう」
「ちゃんとエルボーで対応するから安心しろ」
「それはそれで安心出来ねえな!?」



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拝啓、死んでいった君へ 

 いつか死んだ気がする、と古橋は言った。
「奇遇だな」
実のところ古橋と意見が合うことは初めてでもなんでもなかったので別に奇遇と言うこともなかったけれど。
「オレも同じことを思ってた」
二人で顔を見合わせて笑った。
 もしもこの湖の底、暗い氷の中で二人きりなら、それは幸せなのだろうか。
 きっとそれは誰にも分からないだろう。



君の眼は冬のみずうみ船あまた燃えながら沈みゆく音もなく/永久記憶装置
松野志保

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20180223