*瀬→花→←今前提 剔抉セヨ、カナリアの眼光 瀬今(R18G) そんなに開くこともなければきっと、 その瞼の下に眼球があるかどうかすら疑わしかったと言うのに。 ぎちり、と捻り上げた腕が鳴る音がするようだった。 「なぁ、アー…瀬戸クン? やったよね? 花宮ンとこの。これ、痛いんやけど。解いてくれん?」 今吉は目の前で怠そうな表情を崩さない男を見上げる。後ろ手に縛られているこの状態ではそれしか出来ない、と言い換えても良かった。しん、とした何処とも分からない部屋で後輩のチームメイトと二人きり、縛り上げられている腕の自由は効かず、足もなんだか力が入らない。 「なぁー…何か答えてくれへん? もしかして名前、」 「間違ってないよ。瀬戸であってる」 「ほうか」 で、解いてくれん? と小首を傾げて見せた今吉に、瀬戸は大きくため息を吐いた。 「そない大きなため息吐かんといてや」 流石に今吉にだって分かっている、この状態を作り上げたのは目の前の男だ。しかし、理由が見つからない。彼の所属する霧崎第一とは同じ地区ではあるがこうまでして潰すメリットなどないはずだ。そもそも彼らならばコートの上で正々堂々と(と言うのも可笑しいが)やれば良いだけの話。ならば個人的なことだろうかとも思ったけれども、特に彼に対して恨みを買うようなことをしたかと言うと、残念ながら記憶にはないのだ。 「俺だってさぁ、別に個人的にアンタに恨みがあるわけじゃあないんだけどさ。アンタが花宮を見るとそれだけでアイツ動揺すんだよ。だからさ、その目、潰しちゃお? 今アイピックとかもってないし、指でえぐり出すのも嫌だからさ。ね? ほら、顔前に出しなよ、先輩」 は、と漏れた声はちゃんと形になっていただろうか。困ったことに常人よりは少しばかり回転の良い頭が、今し方言われた言葉をつぶさに理解してしまう。流れるような手つきで取り出されたそれは血液が充満しているようで、確かに先ほど言ったことは実現出来そうではあった。あったが。 「な、ん…」 信じられないものを見る目になったのも仕方ないと思う。頬にべちりと当てられその熱さを皮膚で感じた。 「これから先、花宮がアンタの目線に怯えることがなくなるって思うとさ、正直今からでも興奮できるよね」 恋にすらなりきれない執心が愛慾に変換されると、こうも歪んだ形になるのかと思ってしまう。 眼鏡を外され、眼前の肉しかはっきり見えるものがなくなった。その手つきがいやに優しく思えて首を振り距離を取ろうとすると、伸びてきた手が両耳をこれでもかと言うほと引っ張り、上を向かせる。 「ねぇ、先輩。目は二つあるんだから、さ。んで折角これ、使うんだから」 やめろ、と。そう声にすることすら震えて叶わなかった。せめてもの抵抗にと目をぎゅっと瞑る。上の方で嘲りの色を灯した笑い声が聞こえた。意味はきっとないだろう、けれども目を見開いたまま迫り来るものを凝視している程、今吉は勇敢ではない。 「良い声で啼いてよね」 腰の引かれる気配に、今吉はもう一度、その閉じた瞼に力を入れた。 * カナリアの臍帯を咀嚼する 瀬花(R18) しんと静まり返った部室で、粘膜のこすれる音だけが響いていた。 腰から迫り上がる悦楽を感じながらも、瀬戸は冷え切った目でそれを見下ろす。いつもは悪意を秘めていたり、もしくはきらきらする優等生のフィルターを掛けている眸が、ひどく蠱惑的に揺れているのがまた滑稽だ。 「今吉さん、今吉さん…」 他の男の名前を呼びながら、その欠片ほども残っていないはずの名残を追う花宮が、純粋に憐れで、そして気持ち悪いと思った。擽るように舌を這わせてみたり、リップ音とともに小鳥のように接吻けを落としてみたり。喉の奥の肉にこすれる程に飲み込んでいる、この状況はとてつもなく腰に来るはずなのに、胸がしんと冷え返っていて、其処にいるのが自分ではないような気さえしてくる。 その目線の先にいるのは瀬戸ではなく、あの男なのだ。あの眸が失くなっても、花宮の視線は依然としてあの人へと向いたままで、寧ろ失くなったからこそ、強くなったような気もした。 この喉の奥まで突っ込んでしまえば良いだけなのに、そうしたらきっと気持ち良いだろうに。硬い眼窩の拡がらない窄まりよりも、肉で出来ている其処はきっと吸い付いてくるだろう。なのに、それを出来ないのは。 「いまよし、さん」 花宮のその声も眼差しも、ひどく甘ったるいそれがどうしたって自分に向くことなどないと、分かってしまったからにほかならないのだ。 * 20131113 えのさんがこれの本番漫画「幕間」を書いてくれました! |