こどもとこども:黛葉
あ、と声を上げたのは体育館の階段下、
そのぼんやりと照らされるスペースに見知った顔がいたからだ。
「…何でお前いんの」
「練習してたからだけど」
冬は敗けちゃったし、自主練増やしたの。
そう言って降りていけばもっともっと顔が歪められるのが分かる。
階段下には自動販売機がある。それが、このスペースを薄暗く照らしている源だ。
「黛サンこそ何してんの」
「…勉強の息抜き」
「こんな時間まで勉強?」
どれにしようか迷っているのか、
自動販売機の列を行ったり来たりしていた指が気まずそうに止まった。
「………そうだけど?」
「いやいやいや、黛サン嘘吐くの下手すぎね? 何してたの? 悪いこと?」
そういうの、部活に関わるんだからやめてよね、と睨めばそんなんじゃない、と返される。
誤魔化すようにピッと音が鳴らされて、それからそれを拾った黛はチッと舌打ちをした。
「やるよ」
「やるよって何これ」
ずい、と突きつけられた瓶を思わず受け取ってしまう。冷たい。
自動販売機の灯りに照らしてみれば、乳白色をした缶が見えた。
「ピルクルって。黛サンってもしかしてコドモ舌?」
「うるせぇな。お前のこと考えてたら押してたんだよ」
「それってオレがコドモ舌なイメージあるってこと?」
「もう好きに取れよ」
ふうん、と呟いてからでもさ、と顔を上げる。
「残念だけどオレ、普通にブラックとかも飲めんだよね」
アンタの中のオレのイメージがどうなってんのか知らないけど、
と続ければ苛立ったように顔をそむけられた。またピッと音を立てる自販機。
今度はココアを押せたらしい。
コドモ舌というのを否定しなかったのはどうやらその通りだからのようだった。
「ていうか、何でオレのこと考えてたの?」
「…うるさいのが降りてくりゃあ普通に考えるだろ」
「今の間、そういうのじゃなかったよね」
舌打ち。
端正な顔が歪んでいくのが楽しくて、続ける。
「え、じゃあ何? もしかして黛サンって日常的にオレのこと考えてんの?
…あっ。もしかして、此処にいたのもオレのこと考えてたから?」
沈黙。
それは肯定だと、きっと誰でも分かる。
「図星? 図星?」
「…うるせえよ、とっとと上戻れよ身体冷えるぞ」
「ピルクル押し付けて来たくせに」
「それは関係ねーだろさっさと戻れ」
もー冷たいなあ、と声を上げて元来た階段を今度は駆け上がっていく。
「黛サン!」
そうして上のベランダ部分に到達したところで下を見下ろすと、暗がりで人影が振り返った。
「ピルクル、ありがとね!」
はやくかえれー! と心底めんどくさそうな声が聞こえてくるまで、あと三秒。
20140124