最初に“それ”を見た時に感じたのは違和感だった。
そして一拍遅れて、その違和感の正体を把握する。
“それ”には右腕がなかった。
肩の近くは少しばかり残っているようではあったが、
肘があるはずの部分もべこりとへこんでいて、其処には何もないことを知らせている。
あるべきものがない、歪な躯。
(勝った)
今吉翔一はそう思った。
monster:原モブ前提原←今
教師であり監督でもあるその人を追い掛ける自分の目が、
ただの尊敬だけに留まらないと知るのに時間はかからなかった。
画面越しに見ていた時から変わらぬ凛々しさで、勝利を追い求める時のにじみ出る聡明さで、
彼は今吉を惹きつけた。
見ているだけで良いと、そう思っていた。
本来ならば手の届かなかった人なのだ、
こうして目の前にして喋ることが出来る時点で、この上ない幸福なのだと。
それは確かに今吉の本心だった。
あの時、までは。
「センセー彼女とかいるんですか?」
否定の言葉が返って来るのだと思っていた。
君たちのために時間を使っているので、そんなひと、作る暇がないんですよ。
そう言ってくれるのだと、そうであれば今吉だって納得が出来た。
暫く彼は誰のものにもならない、
そういう口先だけのものでもあれば、救われた気にもなっただろう。
けれども。
「いますよ」
はにかみながらそう言った、彼の言葉が理解出来なかった。
「彼女というか、もう、婚約者ですかね。
結婚を前提に一緒に暮らしているんですよ」
幸せでいっぱいだというその横顔に、胸の辺りからどろどろとした感情が湧き出る。
話を聞いていた周りの生徒たちが、
おめでとうございます、なんてはしゃぐのが遠い世界の出来事みたいに感じていた。
今度連れてきてくださいよ、誰かが言った。
いいですよ、と原澤も返した。
そういう訳で試合の終わったあと、
知らない女性が克徳くん、と近付いて来たところで、部員たちは戸惑わなかったのだ。
「みなさん、紹介します」
嬉しそうに、原澤が彼女を紹介する。
今吉は少し離れたところで、“それ”を眺めていた。
あるべきものがない歪な躯に、優越感を隠せなかった。
(それは同情や)
湧き上がった感情に名前を付けるのは容易い。
(憐れみ買うてセンセの隣確保して、ほんま、)
にぃ、と唇が歪む。
同情は長くは続かない。
すぐに底が見えて、崩壊が訪れる。
(そうまでなれば、ワシが、)
彼女へ向けられる原澤の、見たこともない表情だけが、妙に今吉の心に残っていた。
20140417