君と世界の果てまでも、:花諏佐



花宮が本を読んでいると、何やら首筋にげしげしと当たるものを感じた。
この部屋にそんな花宮の首筋に勝手に当たるようなものではなく、人為的なものだと分かる。
そんなことをするのは、一人しかいない。
「…なにしてんの、アンタ」

顔をあげると、隣で本を読んでいたはずの諏佐が何かを持っていた。植物のようだ。
「すずらん刺してる」
何処にあった、と思うがそういえば母親が朝、廊下の花を変えていた気がする。
それだろうか。ならば花宮の気付かぬうちに諏佐は部屋を一度出たということになる。
そこまで集中していたのか。
「毒殺?」
「毒殺」
「古くね」
「何年前だったか」
結構前、と言って本を閉じる。諏佐の方も読んでいた本は閉じてしまっているようだった。
読書の時間は終わり、ということで良いだろう。
「オレ、そんなんで死なねーけど」
「だろうな。今吉の後輩だしな」
「なんだ、それ。あんな妖怪と一緒にすんな」
「一緒にされたくなかったらもっと大人しくしてろ」
「してんじゃねえか」

それを邪魔したのはアンタだろ、と言えばそうだったか、ととぼけられた。
どっちが、と思う。自分よりも余程、この男の方が今吉と似ている。
「全く反応なかったけどな」
「痛くねーし」
「毒殺のつもりだったんだが」
もっと危機感を持ったらどうだ。諏佐の手の中ですずらんは力なく項垂れていた。
力を込めすぎたらしい。そんな力加減が出来ないほど子供ではないだろうに。
「アンタになら殺されても文句は言わないって、意思表示だったんだけど?」

じっと、諏佐の瞳が花宮を映す。

こういう瞬間の色が、花宮はとても好きだ。
どろりとした、色。情事の時よりももっと人間らしい、底なしの色。
「………そんなのは嘘でも要らない」
「はー…なんで嘘ってバレんの」
「今吉と三年も一緒にいれば耐性はつく」
「だからあんなのと一緒にすんなって」

手を伸ばしてすずらんをもぎ取る。耐え切れなかったのか、途中で千切れた緑が哀れだった。
千切れ落ちた首を広いもせずに花宮は目の前の首を引き寄せる。
「目、瞑れよ」
「お前が瞑れ」
軽口を叩いてからそっと接吻ける。

唇は、毒の味がした。



(一度も屈しなかったこの人となら)
20140124